放射線治療を受けていて、こんなふうに感じたことはありませんか。
痛くもないし、熱くもない。
メスで切るわけでもない。
台に横になって、数分でその日の治療は終わる。
なのに、家に帰ってから、
「本当に効いているのかな」
「私の体の中で、いま何が起きているんだろう」
と、じわじわ不安になってくる。
見た目には何も変わらないぶん、余計に落ち着かない。
この「見えない怖さ」は、放射線治療を受ける方が、わりと共通して抱えるものです。
放射線治療室で働いていたころ、同じ気持ちを口にされる方は、少なくありませんでした。
今日は、その「見えないから怖い」という気持ちと、どう付き合っていけばいいかを、
一緒に整理していきたいと思います。
なぜ放射線治療は、「見えない」のか
手術なら、傷あとが残ります。
飲み薬なら、口に入れた感覚があります。
抗がん剤なら注射をして点滴するなど、
「治療をした」という手ごたえが、どこかに残ります。
でも放射線は、目に見えません。
においもしないし、当たっている最中の感覚も、ほとんどありません。
そのうえ、「被ばく」という言葉のイメージが、不安をさらに大きくすることがあります。
ニュースなどで耳にする「被ばく」と、病院が計画して行う放射線治療は、
目的も、量も、管理のしかたもまったく違うのですが、
言葉の響きだけが先に立って、「怖いもの」という印象が残ってしまう。
さらに、放射線治療の多くは、必要な量を一度に当てるのではなく、
何回かに分けて少しずつ照射していきます。
だから、1回ごとに「何かが起きた」という実感は、ほとんどありません。
毎日きちんと通っているのに、手ごたえがない。
その感覚が、「これで合っているのかな」という不安に、つながりやすいのです。
見えなくても、治療はきちんと計画されている
放射線は目に見えないので、なんとなく
「その場その場で、行き当たりばったりに当てているわけじゃないよな」
と感じてしまう方もいるかもしれません。
でも、実際はその逆です。
放射線治療は、始まる前に、どこに、どのくらいの量を当てるかを、
とても細かく計画してから始まります。
この計画を立てるのは、放射線治療を専門にする医師(放射線腫瘍医)です。
どのくらいの範囲に、どのくらいの線量を、何回に分けて当てるか。
体のほかの部分に、できるだけ負担をかけないように、
専門のスタッフがコンピューターで計算し、確認しています。
そして実際の治療では、放射線技師や看護師など、
たくさんのスタッフが、その計画どおりに毎回進んでいるかを見ながら関わっています。
つまり、あなたが「見えない」と感じているあいだも、
その裏側では、計画に沿って、たくさんの人の目が入っています。
施設によって方法は違いますが、多くの場合、毎回の治療の前に、
体の位置が計画とずれていないかを確認してから照射します。
同じ場所に、計画どおりに当てるための確認です。
治療の前に体に印をつけたり、固定の道具を使ったりするのも、
毎回できるだけ同じ姿勢で受けられるようにするためのものです。
治療のあいだ、部屋に一人で残されることを、心細く感じる方もいます。
スタッフが部屋の外に出るのは、毎日たくさんの患者さんの治療に関わるため、
必要のない放射線を受けないようにする決まりがあるからで、
あなたを置いていくためではありません。
別室のカメラとマイクで、スタッフはあなたの様子を見ていますし、声もかけられます。
何かあれば、治療はすぐに止められます。
見えないだけで、手探りで進めているわけではないんです。
このことを知っているだけでも、気持ちの面で少し楽になる方がいます。
「分からないまま、なんとなく進んでいるわけじゃないんだ」と思えると、
見えないことの怖さが、ほんの少しやわらぐことがあります。
「効いているのかな」という不安との付き合い方
とはいえ、「自分の治療が、ちゃんと効いているのか」は、いちばん気になるところだと思います。
ここは正直にお伝えすると、
効果や今後の見通しは、一人ひとり違います。
がんの種類や状態、治療の目的によっても変わるので、あなたの治療が今どういう段階にあるのかは、あなたの主治医が、いちばんよく分かっています。
それに、放射線治療の効果は、その日その日で感じ取れるものではありません。
治療が終わったあとに、診察や検査を通して、時間をかけて確認していくものです。
だから、「毎日通っているのに、効いている感じがしない」のは、おかしなことではありません。
手ごたえがないこと自体を、心配しすぎなくて大丈夫です。
だからこそ、気になるときは、そのまま主治医や放射線腫瘍医に聞いてみましょう。
たとえば、こんなふうに聞いてみると、状況が整理されやすくなります。
- いまの治療は、あと何回くらい続く予定ですか
- 今のところ、計画どおりに進んでいますか
- 治療中に、気をつけて見ておくといい体の変化はありますか
- 次の診察までに、こういう症状が出たら連絡したほうがいい、という目安はありますか
診察室に入ると、聞きたかったことを忘れてしまう方は、本当に多いです。
緊張しますし、短い時間で全部を思い出すのは、誰でも難しいものです。
気になっていることを、あらかじめメモに書いて持っていくと、それだけで伝えやすくなります。
「こんなこと、聞いていいのかな」と思わなくて大丈夫です。
これから治療を続けていくうえで、見通しを確認しておくことは、とても大事なことです。
不安が強くて、眠れない・食べられないとき
見えない不安は、気持ちの問題だけでは片づかないこともあります。
不安が強くて眠れない日が続いたり、食欲が落ちてしまったり、
日中もそのことばかり考えて、生活に影響が出てしまう。
そんなときは、その「つらさそのもの」も、治療を受けている病院に話していい困りごとです。
我慢して抱え込む必要はありません。
気持ちのつらさを相談することは、わがままでも、大げさでも迷惑でもありません。
つらいと感じていることを、言葉にして誰かに話してみるだけでも、少し軽くなることがあります。
ご家族や、話しやすい友人、通院先の看護師など、話せそうな相手に、少しずつ出してみてください。
多くのがん診療の病院には、「がん相談支援センター」という、無料で相談できる窓口があります。
治療のことだけでなく、気持ちのつらさや生活の不安についても相談できる場所です。
院内に、心のケアを専門にするスタッフがいる病院もあります。
また、不安と同時に、
体のほうにも気になる変化(強い痛み、食べられない、発熱など)があるときは、
そちらは早めに医療者へ伝えてください。
気持ちのつらさと体の症状は、切り離さずに見ていくことが大切です。
それでも怖いと感じる自分を、責めなくて大丈夫
ここまで読んで、「理屈では分かったけど、やっぱり怖い」と感じる方もいると思います。
それでいいんです。
見えないものを相手にしながら、毎日通い続ける。
それだけで、気力も体力も使います。
怖いと感じるのは、あなたが弱いからではなく、見えない治療というものが、
そもそも不安を感じやすいものだからです。
分からないことは、分からないままにしておかなくて大丈夫です。
怖いことは怖いと伝えて良いんです。
ひとつずつ、聞けるところから聞いていけば、それで十分です。
そして、その不安や怖さを、全部ひとりで抱えなくてもいい。
主治医にも、看護師にも、相談窓口にも、話していい場所があります。
見えない治療の中で、少しでも「何が起きているか分かる」部分が増えると、
気持ちは変わってきます。
この記事が、その最初のひとつになれたら、うれしいです。
免責事項
この記事は、放射線治療を受ける方が抱えやすい不安を整理するための、一般的な情報です。診断や治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する判断は、必ず主治医や、治療を受けている医療機関にご相談ください。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療の実際」
- 国立がん研究センター 中央病院「医学物理士の役割」

