「痛みをやわらげるために、放射線を当てましょう」
「緩和照射をしましょう」
そう説明されたとき、頭の中がざわっとした方もいらっしゃることと思います。
痛みが取れるならありがたい。
でも、その一方で。
「痛みを取るための治療、緩和ということは、もう治すための治療ではないということ?」
そう聞こえてしまって、聞き返せなかった。
診察室を出てから、そのことばかり考えてしまう。
放射線治療室で働きながら
患者さんからそう聞かれたとき、
何と返答することが良いのか、たくさん悩みました。
この記事では、骨に転移したがんの痛みに対して行う放射線治療(緩和照射)について、
どんな効き方をするのか、いつごろ効いてくるのか、その間をどう過ごせばいいのかを整理します。
※ここに書くのは一般的な話です。治療の回数、期間、体にどんな変化が起きているかは、一人ひとり違います。気になることがある場合は、必ず治療を受けている病院で確認してください。
「痛みを取るための治療」は、あきらめの治療ではない
まず、ここをはっきりさせておきたいと思います。
放射線治療には、大きく2つの目的があります。
ひとつは、がんそのものを治すことを目指す治療。
もうひとつは、がんによって出ている症状——痛み、しびれ、圧迫感など——
をやわらげることを目的とした治療です。
後者を「緩和照射」と呼ぶことがあります。
大事なのは、緩和照射は
「もう打つ手がないから、せめて痛みだけ」
という治療ではない、ということです。
痛みは、それ自体が体力を奪います。
夜眠れない。動けない。食事が進まない。
痛み止めを増やせば、今度は便秘や眠気で生活がつらくなる。
でも
痛みが取れれば、そのつらさを変えることができる。
痛みをやわらげる治療は、生活を取り戻すための、積極的な治療です。
私が現場で見てきた中でも、「緩和」という言葉の響きだけで
落ち込んでしまう方がいらっしゃいました。
でも治療を受け、
実際に痛みが軽くなって、また自分で歩いてトイレに行けるようになった方、
痛み止めを減らせた方もいらっしゃいました。
打つ手がないから
という治療では決してありません。
どのくらいの人に、どのくらい効くのか
正直な数字を書きます。
骨転移の痛みに対する放射線治療では、およそ7割の方で痛みがやわらいだと報告されています。
痛みがほとんど消えたという方も、一定の割合でいらっしゃいます。
ただし、これは「全員に効く」という意味ではありません。
効き方には個人差があり、あまり変わらなかったという方もいます。
(ここは正直にお伝えしておきたいところです)
それでも、7割という数字は、決して小さくありません。
痛み止めの量を減らせた、夜眠れるようになった、という変化も含めて、
多くの方が「前より楽になった」と感じる治療です。
いちばん知っておいてほしいこと:すぐには効かない
これが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
放射線を当てたその日に、痛みがすっと消えるわけではありません。
効果が出はじめるのは、治療を始めて2週間ほど経ってから、というのが一般的です。
最大の効果に達するのは、そこからさらに数週間先、ということもあります。
これを知らずにいると、こうなります。
治療を受けた。次の日も痛い。その次の日も痛い。
「効いていないんじゃないか」「自分には効かない体質なのか」と不安になる。
焦って、落ち込む。
でも、それはまだ効いていないのではなく、まだ効いてくる時期になっていないだけ、
ということが多いです。
薬のように、飲んだらすぐ、という効き方をしません。
じわじわと、時間をかけて効いてきます。
だから、照射のあとしばらくは、痛み止めをそのまま続けることがよくあります。
「放射線を当てたのに、まだ痛み止めを飲むんですか」
と思われるかもしれませんが、効いてくるまでの期間を、薬で支えるという考え方です。
自己判断で痛み止めをやめてしまうと、その期間がつらくなります。
減らすかどうかは、必ず医師と相談して決めてください。
治療は何回? 何日かかるの?
回数は、人によってかなり違います。
1回で終わることもあります。
5回から10回くらいのこともあります。
病状や部位によっては、20回程度になることもあります。
緩和照射は、根治を目指す治療にくらべて放射線の量が少なめに設定されることが多く、
そのぶん治療期間が短く、副作用も軽い傾向があります。
ただし、これも一人ひとり違います。
「何回で、何日通うのか」は、生活の段取り(仕事、家のこと、付き添いの人の予定)に直結します。回数、日程はしっかりと把握しておくと良いでしょう。
痛いのに、治療台でじっとしていられるか
これは、実際にとても切実な問題です。
放射線治療では、治療台の上で、動かずに横になっている必要があります。
治療台は、体が沈まないように硬くできています。
数分から、長ければ数十分。
痛みが強い方にとって、
この「硬いところに、じっと横たわる」こと
そのものが、つらいのです。
治療そのものより、その姿勢がこわい。
そう感じる方は、少なくありません。
ここは、我慢するところではありません。
痛みで姿勢が取れない場合、照射の前に痛み止めを使ってから治療を受ける、
という方法が取られることがあります。
時間を合わせて薬を飲んでおく、という調整です。
「横になるのがつらいです」「この姿勢だと痛みます」と、我慢せずに伝えてください。
姿勢の工夫や、痛み止めのタイミングを一緒に考えてもらえます。
伝えないままだと、毎回つらいまま治療を受けることになります。
治療を中断することにもなりかねません。
よかったら「放射線治療初回当日の流れ」記事も参考にしてください。
待たずに病院へ連絡してほしいサイン
ここは、この記事でもっとも大事な部分です。
読み飛ばさずに見てください。
骨転移が背骨にある場合、まれに、神経が圧迫されることがあります。
この場合、次のような症状が出ることがあります。
- 手や足にしびれが出てきた
- 手や足に力が入りにくい、動かしにくい
- 足の感覚がおかしい、ふらつく
- 急に排尿・排便がしにくくなった、感覚が鈍い
- 痛みが、これまでとは明らかに違う強さ・広がり方をしている
これらは、次の診察を待たずに、すぐ病院へ連絡してほしい症状です。
神経の圧迫による麻痺は、症状が出てから時間が経つほど、
治療をしても回復しにくくなることが知られています。
数日で状況が変わってしまうことがあります。
だからこそ、「様子を見よう」ではなく、その日のうちに連絡してほしいのです。
「これくらいで連絡していいのかな」
「次の診察でも良いかな」
と迷う必要はありません。
しびれや力の入りにくさは、迷う前に電話していい症状です。
夜間や休日にどこへ連絡すればいいか、治療が始まる前に確認して、メモに書いておいてください。
いざというときに焦らなくて済みます。
待つあいだの生活で、気をつけたいこと
効果が出てくるまでの期間、日常生活でいくつか気をつけたいことがあります。
骨転移がある部分の骨は、もろくなっていることがあります。
そのため、体をひねる、無理な姿勢で重いものを持つ、といった動作は、負担になることがあります。
- 起き上がるときは、一度横向きになってから、足をおろして起きる
- 寝返りは、肩・腰・足を一緒に動かして、体をねじらない
- 重いものは持たない。持つなら、転移のない側の腕で
- お風呂は、立ったまま体を洗うより、椅子に座って洗うほうが安全なことがあります
ただし、
どこまで動いていいか、湯船に入っていいか、コルセットを使うかどうかは、
転移の場所と状態によって違います。
自己判断せず、担当の医師や看護師、リハビリのスタッフに確認してください。
「動かないほうがいいですか」「これはやっていいですか」と聞くのは、大切なことです。
動きすぎるのも、こわがって動かなさすぎるのも、どちらもよくないことがあります。
診察で伝えると役に立つこと
痛みは、目に見えません。
だから、言葉にしないと伝わりません。
診察のとき、こういうことをメモして持っていくと、伝わりやすくなります。
- 痛みが強いのは、どの時間帯か(夜がつらい、朝がつらい、動いたとき)
- どんな動作で痛むか(起き上がるとき、歩くとき、じっとしていても痛い)
- 痛み止めを飲んで、どのくらい効いているか。効かない時間はあるか
- 眠れているか
- 痛みのせいで、できなくなったことはあるか
- しびれや、力の入りにくさは出ていないか
とくに「痛み止めが効いている時間・効かない時間」は、薬の調整をするうえで大事な情報です。
「効いてます」だけだと、実は夜中だけ効いていない、
という状態が見逃されてしまうことがあります。
うまく話せなくても大丈夫です。
メモを見せるだけでも、十分伝わります。
よかったら「がん治療の診察前メモ」記事も参考にしてください。
「痛みを取るための治療」と言われて、揺れた気持ちは、そう簡単には整理できないと思います。
それでも、痛みが軽くなって、眠れる夜が戻って、自分で動ける範囲が増えることには、
確かな意味があります。
それは生活そのものだからです。
効いてくるまでには、少し時間がかかります。
その間を、痛み止めと、生活の工夫で、一緒に越えていければと思います。
そして、しびれや力の入りにくさが出たときだけは、待たずに電話してください。
それだけは、覚えておいてください。
この記事の内容について
この記事は、骨転移の痛みに対する放射線治療について、一般的な情報を整理したものです。治療の目的、回数、期間、効果の出方、日常生活の注意点は、一人ひとりの病状によって異なります。診断や治療の判断はしていません。あなたの体に起きていること、これからの見通しについては、必ず治療を受けている病院の医師にご確認ください。気になる変化があるときは、次の診察を待たずに相談して構いません。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療の実際」
- 静岡県立静岡がんセンター「がんの骨への転移と日常生活」(学びの広場シリーズ)
- 日本癌治療学会 がん診療ガイドライン「がん疼痛薬物療法/薬物療法以外の痛み治療法」

