「上半身の服を脱いで、腕を上げた姿勢で治療台に横になる。」
「胸を出したまま、位置を合わせてもらう。」
乳房や胸壁への放射線治療は、その繰り返しです。
服を脱ぐのは、放射線を当てる範囲を正確に合わせるため。
皮膚につけた目印を見ながら、毎回、同じ位置に体を整えていきます。
どこまで体を出すのか、どこまで隠されるのか。
そのあたりは病院や治療の方法によって違います。
治療に必要なことだと、分かってはいる。
それでも、つらい。
そう感じている方に向けて書きました。
治療初回の流れを先に知っておきたい方は、「放射線治療の初日、当日はどう進む?流れと過ごし方」も参考にしてください。
「大丈夫です」と言っていた方が、ある日「もう放射線治療を続けたくない」と話した
それまで「大丈夫です」と答えながら、乳房や胸壁の治療に通っていた方がいました。
ある日、その方が「もう放射線治療を続けたくない」と話されました。
理由を聞くと、腕を上げ、胸が見える姿勢になること。
位置合わせのたびに胸を見られること。
そして、担当するスタッフが男性だけだったことも重なり、つらくなっていたそうです。
治療に必要なことだとは分かっている。分かっているけれど、もう限界だった。
「大丈夫です」の中に隠れていたつらさを、私は見落としていました。
つらさの正体は、「胸を出すこと」だけではない
ひと言で「恥ずかしい」といっても、その中身はいくつかに分かれます。
姿勢そのもの
腕を上げたまま、動かずにいる。自分では体を隠しにくい姿勢です。
見られることが繰り返される
治療計画の日だけでなく、照射の日にも位置合わせがあります。一度きりではありません。治療のたびに胸を見られることが、少しずつ負担になっていく方もいます。
関わるスタッフの人数や性別
位置合わせには、複数のスタッフが関わります。その日の配置によっては、治療室に女性スタッフがいないこともあります。
治療が続くこと
治療回数は治療の内容によって異なります。一度だけではなく、複数回続く場合は、回を重ねるほど負担になることがあります。
手術のあとの体を見られること
傷や、左右の違い。自分でもまだ見られていない体を、他人に見られる。
これらは、それぞれ別のつらさです。どの部分が一番つらいかも、人によって違います。
これは、わがままではない
「治療に必要なことだから、がまんするしかない」
そう考えて、つらさを言えずにいる方もいます。
でも、治療に必要であることと、つらくないことは、別です。
必要な治療だからこそ、少しでも負担を減らして受けられる方法を一緒に考えることが大切です。
つらさを伝えることは、わがままではありません。
医療者も、言葉にされていないつらさを、すべてくみ取れるわけではありません。
「大丈夫です」と返事があれば、医療者はそこで安心してしまいます。
伝えてもらって初めて、どのような配慮ができるかを考えられます。
つらさが積み重なる前に
胸を出すことへの抵抗が積み重なると、治療に向かうこと自体が苦しくなることがあります。
放射線治療の回数や間隔は、一人ひとりの治療計画に合わせて決められています。
「休みたい」「続けるのが難しい」と思うほどつらいときは、
自己判断で休んだり中止したりする前に、治療を担当する医療者へ相談してください。
着替え方やスタッフの関わり方など、負担を減らす方法を探せることがあります。
すでに「もう無理」と感じていても、今から相談してかまいません。
聞いてみていいこと
つらいと伝えたとき、その病院でできる方法を一緒に考えてもらえることがあります。
何ができるかは、治療の方法や装置、病院の体制によって異なります。
下に挙げるのは「必ずしてもらえること」ではなく、「聞いてみていいこと」です。
- 照射に必要な範囲以外は、タオルや検査着で覆ったままにできますか
- 胸を出すタイミングをできるだけ遅くし、終わったら早く覆うことはできますか
- 女性スタッフに立ち会ってもらうことはできますか
- 安全に治療できる範囲で、治療室にいるスタッフの人数を必要最小限にできますか
- 体に触れる前や、胸を出す必要があるときに、ひと声かけてもらえますか
- どこで着替え、いつ下着を外すのか、先に説明してもらえますか
治療の正確さや安全を保つため、希望どおりにできないこともあります。
その日の配置によっては、女性スタッフが対応できないかもしれません。
それでも、聞いてみること自体は失礼ではありません。
どう伝えればいいか
長く説明する必要はありません。まずは、ひと言からで大丈夫です。
「胸を出すことに抵抗があります」
「できる範囲で構わないので、体を隠せる方法はありますか」
「体に触れる前に、声をかけてもらえると助かります」
詳しい理由まで話したくないときは、無理に話さなくてもかまいません。
まず「つらい」と伝えるだけでも、相談のきっかけになります。
何が特につらいかを話せそうであれば、話せる範囲で伝えてみてください。
医師に言いにくければ、看護師でも、毎日の照射を担当する診療放射線技師でもかまいません。
話しやすい人に伝えてください。
診察のときにうまく言えるか不安な場合は、「診察前メモ」に書いて持っていく方法もあります。
診察の場で聞けなかったときも、そのあとに看護師や診療放射線技師へ伝えてかまいません。
希望どおりに変えられないこともある
伝えても、希望した方法では対応できないことがあります。
治療の正確さや安全、装置の仕組み、スタッフの配置などによって、
変えられないこともあるからです。
それでも、伝えたことが無駄になるとは限りません。
あなたがつらさを抱えていると分かれば、できる範囲で、先に説明する、
体に触れる前に声をかける、必要な確認が終わったら早めに体を覆うなどの
配慮をしてもらえることがあります。
希望どおりにできない場合も、なぜそれが必要なのかを説明してもらえれば、
何をされるか分からない不安は少し小さくなります。
「今さらもう言えない」と思っている方へ
治療が始まってから、こう感じる方がいます。
「最初の日に何も言わなかったのに、今さら言い出せない」
「ここまで平気な顔をしてきたのに、急に言ったら変に思われる」
途中からでも、つらさを伝えてかまいません。
最初は緊張していて、自分が何をつらいと感じているのか分からなかった。
何回か通ううちに、だんだん分かってきた。
そういうこともあります。
「最初は大丈夫だと思っていたんですが」
この前置きをひとつ置くと、話し始めやすくなります。
これから治療が始まる方は、治療計画CTや初回照射の前に伝えておく方法もあります。
どの場面で服を脱ぐのか、どこまで体を出すのか、
女性スタッフへの希望に対応できるかを先に聞いておくと、当日の見通しが立ちやすくなります。
着替えの負担を少し減らすために
下着や服を変えても、位置合わせや照射のために胸を出す必要がなくなるわけではありません。
それでも、着替えそのものの負担を減らせることがあります。
国立がん研究センター中央病院では、乳房の手術や放射線治療のあとに使う下着として、
前開きでワイヤーの入っていないソフトタイプをすすめています。
ワイヤー入りや締めつけるタイプは、皮膚や傷への刺激が強く、痛みやむくみの原因になるためです。
放射線治療中は、照射位置の目印が下着につくことがあるため、
濃い色のブラジャーがよいとされています。
スポーツ用や授乳用の前開きブラをすでに持っている場合は、それを使ってもかまいません。
前開きの服や下着は、頭からかぶる必要がなく、
腕や肩を大きく動かしにくいときにも着替えやすいことがあります。
ただし、傷や皮膚の状態、再建手術の有無によって、合う下着は異なります。
新しく用意する前に、手持ちのものが使えるか、病院のスタッフへ聞いてみてもよいでしょう。
まとめ
- 胸を出すことがつらいと感じても、わがままではありません
- できる配慮は、治療方法や装置、病院の体制によって異なります
- まずは「胸を出すことに抵抗があります」のひと言からでかまいません
- 治療の途中からでも、つらさを伝えてかまいません
治療に必要な姿勢であっても、その時間をどう感じるかは別のことです。
体のことだけでなく、気持ちのことや、体を見られることへの抵抗も相談してよいのです。
次に病院へ行ったとき、着替える前に、話しやすいスタッフへひと言伝えてみてください。
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この記事の内容について
この記事は、乳房や胸壁への放射線治療で体を見られることへの抵抗や、医療者への伝え方について、一般的な情報をまとめたものです。治療方法や着替え方、対応できる配慮は、病院や治療内容によって異なります。実際の治療については、通院している病院の医師、診療放射線技師、看護師にご確認ください。
参考情報
- 国立がん研究センター中央病院「乳房切除後の下着の選び方」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療の実際」
- 日本放射線腫瘍学会「放射線治療Q&A」

