鏡の前で、治療している側の胸を見る。
なんだか、少し赤い。
放射線治療が始まって、しばらく経ったころ。
皮膚がヒリヒリしたり、日焼けのあとみたいに赤くなってきたり。
「これって、大丈夫なのかな」
「悪くしないようにするには、何をすればいいんだろう」
と、気になりはじめる方は少なくありません。
でも、いざ調べようとしても、洗い方も、下着も、塗り薬のことも、
情報がバラバラで、結局どうすればいいのか分からない。
この記事では、乳房や胸のあたりに放射線治療を受けている方に向けて、
皮膚が赤くなってきたときの家でのケアと、下着や服の選び方、
そして病院に相談したほうがいい状態を整理します。
治療中の肌のことで、少し気持ちが軽くなればと思います。
赤みやヒリヒリは、いつごろ出てくるのか
まず、時期の話からです。
乳房や胸のあたりの放射線治療では、治療を始めて2〜4週間ほど経ったころから、
放射線が当たっている範囲の皮膚が、日焼けのように赤くなったり、
かゆくなったり、ヒリヒリしたりすることがあります。
「治療を始めてすぐ」ではなく、少し経ってから出てくることが多いんですね。
そして、ここがとても大事なところなのですが、
皮膚の症状がいちばん強くなるのは、治療が終わったあとになることがあります。
治療が全部終わってから1〜2週間ほどが、赤みやヒリヒリのピークになりやすい時期とされています。
これを知らないと、
「治療、終わったのに、なんだか悪くなってきた」
「もう放射線は当たっていないのに、どうして」
と、不安になってしまいます。
でも、それは治療がうまくいかなかったからではなくて、皮膚の反応として、よくあることなんです。
多くの場合、治療が終われば2週間ほどで、症状は少しずつやわらいでいきます。
見た目は日焼けに似ているのですが、少し違うところもあります。
日焼けは、その日浴びた分ですぐ赤くなりますよね。
放射線治療の場合は、毎日少しずつ当たった分が皮膚に積み重なっていくイメージなので、
後半になるほど、そして終わったあとしばらくのほうが、反応が出やすいことがあります。
だから、「最初は平気だったのに、途中から急に」と感じるのも、自然なことなんです。
だから、治療が終わってからも、しばらくは肌のケアを続けることが大切になります。
家でできる、肌へのケア
赤みやヒリヒリが出てきたとき、あるいは、まだ症状がないときから、家でできることがあります。
考え方はシンプルで、「清潔にする」「刺激を減らす」「乾燥を防ぐ」 の3つです。
順番に見ていきますね。
洗い方
治療中の皮膚は、ゴシゴシこすらないことが、いちばん大切です。
- 石けんやボディソープは、よく泡立ててから、泡を肌にのせるように使う
- 泡立てるのが大変なら、泡で出てくるタイプのものを使ってもいい
- 放射線が当たっている部分は、手でなでるようにやさしく洗う
- ナイロンタオルなどで、こすらない
- 洗い流したあとは、やわらかいタオルで、押さえるように水気を取る(こすらない)
石けんを泡立てるのも大変な日は、シャワーやお湯で流すだけでもかまいません。
無理に全部やろうとしなくて大丈夫です。
皮膚炎の洗い方や保湿について、部位を問わずもっと詳しく知りたい方は、放射線治療の皮膚炎・肌ケアの記事もあわせてご覧ください。
お湯は、熱すぎると刺激になるので、ぬるめにしておくと安心です。
避けたほうがいいこと
治療中の肌には、次のようなことは控えておくと安心です。
- 湿布や絆創膏を、照射部位に貼ること
- 温泉、サウナ、岩盤浴、プール
- 熱いお湯での長い入浴
- ハッカ(メントール)など、刺激の強い成分が入った洗浄料
乾燥を防ぐ(保湿)
皮膚が乾いてカサカサしたり、つっぱる感じがしたりするときは、保湿が助けになります。
ただ、ここで一つ気をつけたいことがあります。
市販の保湿剤や塗り薬を、自分の判断で足す前に、まず治療室のスタッフや医師に相談してください。
理由は2つあります。
1つは、放射線治療中は、その人の肌の状態に合った保湿剤やお薬を、
医師が処方してくれることがあるからです。
塗り方も、看護師が教えてくれます。
もう1つは、照射部位につけている印(マーキング)が、保湿剤によってはにじんでしまい、
治療に影響することがあるからです。
だから、何を、いつ、どのタイミングで塗るかは、確認しておくと安心です。
「保湿剤って、市販のを使っていいですか」
「今持っているクリーム、塗っても大丈夫ですか」
これも、聞いていい質問です。
むしろ、自分で判断して塗って、あとから
「これ、塗らないほうがよかったのかな」
と心配になるより、先に一言確認しておいたほうが、気持ちも楽になります。
ドラッグストアには、たくさんの保湿剤や、かゆみ止め、皮膚の薬が並んでいます。
よさそうに見えても、治療中の肌には刺激になるものもあります。
「肌にいい」と書かれていても、今のあなたの肌に合うかどうかは別の話なので、
そこは自己判断せず、確認してからにしてくださいね。
下着と服は、我慢する場所ではなく、変えていい場所
治療中の肌にとって、下着や服のこすれ・締めつけは、
症状を強くする原因の一つになることがあります。
特に、胸のあたりは、下着が毎日直接触れる場所。
ここは、我慢して乗り切るのではなく、見直していくべき部分です。
下着
- ワイヤーの入っていない、ゆったりしたソフトブラを選ぶ
- カップ付きのタンクトップや、キャミソールでもいい
- 綿など、肌当たりのやわらかい素材にする
- 印が色移りすることがあるので、濃い色のものだと気が楽
乳がんの患者さん向けに作られた、前開きのソフトブラや、
シャツタイプ・キャミソールタイプの下着も市販されています。
締めつけがつらいときは、こうしたものを探してみるのも一つです。
服
- 首やわきなど、当たる部分の縫い目やタグを避ける
- ゆったりした、やわらかい素材を選ぶ
- 鎖骨のあたりまで放射線が当たっている場合は、襟のこすれる服は避けたほうが無難
「下着が当たって痛いんです」
そう伝えてもらえたら、治療室の看護師は、皮膚の状態や、
下着が当たっている場所を見て、今できる工夫を一緒に考えられます。
治療のために胸を出すこと自体がつらい、という方もいます。その気持ちについては、こちらの記事でお話ししています。
こんなときは、次の診察を待たずに相談を
家でのケアで様子を見ていいことが多いのですが、なかには、
早めに相談したほうがいい状態もあります。
次のようなときは、次の診察を待たずに、治療室のスタッフや病院に相談してください。
- 皮膚がジュクジュクしてきた、皮がむけてきた
- 水ぶくれのようになってきた
- 痛みで眠れない
- 熱を持っている、腫れてきた
「まだ、ちょっと赤いくらいだし」「我慢できないほどじゃないから」と思っているうちに、
気づかないところで悪化していることもあります。
こういう変化があるときは、市販の薬を自分で足す前に、一度、見てもらってくださいね。
皮膚の状態に合った処置や、お薬を提案してもらえることがあります。
治療が終わったあとも、しばらくは続けて
先ほどもお伝えしたように、皮膚の症状は、治療が終わったあとにピークが来ることがあります。
なので、治療が終わってからも、
1か月ほどは、治療中と同じような洗い方・服装・スキンケアを続けておくと安心です。
赤みが引いたあとも、照射が当たっていた範囲は、
皮膚が黒っぽくなったり(色素沈着)、乾燥しやすい状態が、数か月から、
長いと1〜2年ほど続くことがあります。
これも、体に何か悪いことが起きているわけではなく、放射線治療のあとに、よくみられる変化です。
乳房の治療のあとには、治療した側の腕がむくむ・肩が動かしにくいと感じることもあります。気になる方は、腕のむくみについての記事も参考にしてみてください。
気になるときは、保湿を続けながら、ケアしていくとよいとされています。
おわりに
肌が赤くなってくると、「悪くしてしまわないか」と、不安になりますよね。
でも、洗い方や下着を少し工夫するだけでも、肌への負担は減らせます。そして、それでもつらいとき、迷うときは、我慢して抱え込まずに、治療室のスタッフに話してみてください。
毎日通う治療だからこそ、肌のことも、下着のことも、「これくらいで聞いていいのかな」と思わなくて大丈夫です。
診察で聞きたいことを忘れないための診察前メモも用意しています。よかったら使ってみてください。
治療を最後まで続けていくために、あなたの肌を守ることも、大事なことの一つです。病院のスタッフと一緒に、無理のない形で、ケアしていきましょう。
※この記事は、放射線治療を受ける方の生活の工夫や不安の整理を目的とした情報です。診断や治療方針を決めるものではありません。症状の感じ方や必要なケアは、お一人おひとりの治療内容や体の状態によって異なります。気になる症状があるときは、治療を受けている医療機関にご相談ください。
参考情報
- 国立がん研究センター中央病院 看護部「放射線治療中のスキンケア」
- 静岡県立静岡がんセンター「放射線の副作用による赤みや色素沈着など皮膚症状」
- 日本乳癌学会編『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』Q37

