治療予定表を受け取る。
月曜日から金曜日まで、毎日通院。
その日付を見た瞬間、治療への不安と一緒に、
「この時間、毎日どうやって仕事を抜けよう」
「途中から働けなくなったら、どうしよう」
と、仕事について頭に浮かぶ方がいらっしゃいます。
放射線治療室にいたころ、
「仕事は続けてもいいんですか?」
「治療が始まる前に、休職したほうがいいでしょうか」
「他の方で治療しながら仕事続けてた人いますか?」
と聞かれることは、少なくありませんでした。
先に結論をお伝えすると、外来で放射線治療を受けながら、仕事を続ける方はいます。
一方で、「放射線治療なら働けます」と、誰にでも同じ答えを出すことはできません。
照射する部位や治療内容だけでなく、立ち仕事なのか、
重い物を持つのか、通勤にどのくらいかかるのかでも、負担は変わるからです。
大切なのは、今すぐ「辞めるか、これまでどおり働くか」を決めることではありません。
治療と仕事の条件を一つずつ確認し、
必要になったら途中で働き方を変えられるようにしておくことです。
この記事では、そのために何を確認し、病院や職場へどう伝えればよいのかを整理します。
(この記事は、外来で受ける外部照射を中心にした一般的な情報です。小線源治療や核医学治療、入院での治療、薬物療法を同時に受ける場合などは事情が異なります。ご自身の治療と働き方については、主治医や放射線治療のスタッフ、職場と相談して決めてください。)
仕事を続けながら通う方はいる
体の外から放射線を当てる外部照射は、通院で受けることが多い治療です。
治療内容によって異なりますが、放射線治療室にいる時間は、おおむね10〜30分。
実際に放射線が出ている時間は、数分のこともあります。
ただし、治療時間が短いことと、通院全体が短いことは同じではありません。
病院までの往復、受付、着替え、待ち時間、定期的な診察などもあります。
初回や確認が必要な日は、いつもより時間がかかることもあります。
また、外部照射は土日・祝日を除いて毎日行うことが一般的ですが、
期間は治療の目的や内容によって、1日だけの場合から2か月ほど続く場合までさまざまです。
まずは「照射は数分だから働ける」「毎日通うから働けない」と決めず、
自分の場合の通院全体にかかる時間を確認することが出発点になります。
なお、外部照射では、照射が終わったあとに放射線が体に残ることはありません。
職場の人や家族へ放射線の影響を与えることもありません。
小線源治療や、放射性医薬品を使う核医学治療では注意点が異なるため、
病院から受けた説明に従ってください。
続けられるかは、治療だけでは決まらない
同じ放射線治療を受けても、仕事への影響は一人ひとり違います。
考える材料は、大きく分けると次の4つです。
- 照射する部位、治療期間、薬物療法を同時に受けるか
- 起こる可能性がある症状と、その時期
- 仕事内容と、仕事中に求められる安全性
- 通勤時間や、帰宅後の家事・育児などを含めた一日の負担
放射線治療の副作用は、主に放射線を当てた範囲に起こり、症状は部位によって異なります。
たとえば、頭頸部では口やのどの症状、胸部では咳や飲み込みにくさ、
腹部や骨盤では食欲低下や下痢などが仕事に影響することがあります。
疲れやだるさは、放射線の影響だけでなく、毎日の通院や、
がんと向き合う心身の負担が重なって出ることもあります。
まったく症状を感じない方もいれば、治療が進むにつれて負担を感じる方もいます。
「最初は普通に働けていたのに、途中からきつくなった」
これは、働き方を考え直す必要が出てきたというサインであって、
頑張りが足りないという意味ではありません。
反対に、起こる可能性があると説明された症状が、必ず出るわけでもありません。
治療前の予想だけで、治療期間すべての働き方を固定しないことが大切です。
治療中のだるさについては、放射線治療のだるさ|対処法と相談の目安でも詳しくまとめています。
「退職するか、通常どおり働くか」の二択ではありません
仕事のことを考えると、
「休むほどではないかもしれない」
「でも、今までどおり働き切れる自信もない」
という間で迷うことがあります。
けれど、選択肢は退職と通常勤務の2つだけではありません。
退職すると、職場の休暇・休職制度を使えなくなり、
健康保険や収入を支える制度の扱いが変わることもあります。
退職届を出す前に、使える制度とお金の見通しを一度確認してください。
職場の制度や仕事内容によっては、次のような調整を検討できます。
- 通院日に時間単位の有給休暇や半休を使う
- 始業・終業時間をずらす
- 一時的に勤務時間を短くする
- 在宅勤務ができる日は切り替える
- 残業や夜勤、出張を一定期間減らす
- 体力を使う仕事から、一時的に別の業務へ変えてもらう
- 途中で体調を見直す日を、あらかじめ決めておく
どの制度が使えるかは職場によって異なります。
最初から治療期間全部の答えを出さず、
「まずはこの形で始め、体調が変わったら見直す」と考えてもいいのです。
まず病院で、「仕事内容」を伝えてみる
主治医や放射線治療のスタッフは、治療内容を知っています。
でも、あなたが一日何時間働き、どのくらい立ち続け、何を持ち、
どんな方法で通勤しているかまでは、話さなければ分からないことがあります。
「仕事をしてもいいですか」だけではなく、仕事内容まで添えると、
具体的な注意点を聞きやすくなります。
たとえば、次のように伝えられます。
仕事は続けたいと考えています。
一日中立つ仕事で、重い物を持つことがあります。通勤は片道1時間です。
私の治療では、いつごろどのような負担が出やすく、仕事で避けたほうがよいことはありますか?
運転、高所での作業、機械の操作など、体調の変化が安全に関わる仕事では、
そのことも必ず伝えてください。
治療前には、次の5点を確認しておくと、職場と話しやすくなります。
- 治療はいつからいつまでで、週に何回通うのか
- 診察日を含め、1回の通院全体にどのくらい時間がかかりそうか
- 朝や夕方など、予約時間を相談できるか
- 自分の照射部位では、どんな症状がいつごろ出る可能性があるか
- 現在の仕事内容で、注意したほうがよいことはあるか
予約時間の調整ができるかどうかは、病院の診療体制や空き状況によって異なります。
それでも、「仕事があるので、この時間帯だと通いやすいです」と伝えてみることはできます。
治療前の服装や持ち物、通院生活の準備は、放射線治療が始まる前の準備|服装・持ち物・生活の確認ポイントにまとめています。
職場には、「必要な情報」を「必要な相手」に
職場の全員に、病名や治療の詳しい内容を伝える必要はありません。
一方で、通院時間の確保や仕事内容の調整を求める場合は、
上司、人事・総務、産業医や保健師など、
支援に関わる人へ必要な範囲の情報を伝えることになります。
大切なのは、病名だけを伝えて終わるのではなく、仕事に関係する情報を具体的にすることです。
- 通院が必要な期間と、おおよその頻度
- 勤務中に抜ける可能性がある時間
- これまでどおりできる仕事
- 一時的に調整してほしい仕事
- 働き方を見直したい時期
たとえば、次のように整理できます。
〇月から平日に通院治療が始まります。
まずは〇月末まで、週〇回、〇時間ほど勤務を抜ける可能性があります。
〇〇の業務はこれまでどおりできますが、体調が変わった場合に勤務時間や担当業務を見直せるよう、相談させてください。
治療期間や体調の見通しがまだ分からないときは、
「現時点で分かっている範囲です」と添えてかまいません。
誰に、どこまで伝えるか迷う場合は、詳しい病名を話す前に、
人事・総務へ「治療との両立を相談するとき、どのような情報や書類が必要ですか」
と確認する方法もあります。
医師と職場をつなぐ書類もある
病院では仕事の実情が分からず、職場では治療の影響が分からない。
その間をつなぐために、厚生労働省は次のような様式例を公開しています。
- 仕事内容や勤務状況を主治医へ伝える「勤務情報提供書」
- 働くうえでの注意点などを主治医から職場へ伝える「主治医意見書」
- 本人・職場・主治医が一枚で情報をやり取りする「両立支援カード」
すべてを自分で準備しなければならないわけではありません。
職場や病院ですでに使っている書式があることもあります。
「治療と仕事の両立に使える書類はありますか」と、
人事・総務や病院の相談窓口へ聞いてみてください。
2026年4月から、両立支援は事業主の努力義務になった
2026年4月1日から、職場における治療と就業の両立支援への取り組みが、
事業主の努力義務になりました。
対象は雇用形態にかかわらず、
反復・継続した治療が必要だと医師が判断した病気を抱える労働者です。
職場には、相談窓口や支援体制を整え、
必要に応じて休暇・勤務制度や就業上の配慮を検討することが求められています。
ただし、「希望した働き方が必ずそのまま認められる」という意味ではありません。
主治医や産業医などの意見、仕事の内容、本人の希望、職場の制度や状況を踏まえて、
話し合いながら決めていく仕組みです。
一人で整理できないときは、がん相談支援センターへ
「病院と職場、どちらから話せばいいのか分からない」
「病名をどこまで伝えるか迷う」
「休むと収入がどうなるのか心配」
そんなときは、がん相談支援センターで相談できます。
がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている窓口です。
- 患者さん本人だけでなく、家族も利用できる
- 相談は無料で、匿名でも利用できる
- その病院に通っていない方も相談できる
- 看護師や医療ソーシャルワーカーなどが対応する
仕事やお金のことも、相談内容の一つです。
施設によっては、社会保険労務士へ相談できたり、
両立支援コーディネーターが本人・病院・職場の間の情報整理を手伝ったりすることもあります。
すべての病院に同じ支援があるわけではないため、
まずは「治療と仕事の両立について相談したいです」と伝えてみてください。
休んだときのお金が心配なら
健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがの療養のため、それまでの仕事に就くことができず、
給与を受けられないときは、傷病手当金の対象になる場合があります。
ただし、放射線治療に通っているだけで、自動的に支給される制度ではありません。
連続する3日間の待期のあと、4日目以降も仕事に就けないことなど、いくつか条件があります。
加入している健康保険や働き方によって扱いが異なるため、
会社の人事・総務、健康保険の窓口、がん相談支援センターへ確認してください。
医療費や生活費に使える制度については、がん治療の医療費はいくらかかる?高額療養費制度と自己負担でも整理しています。
途中でつらくなったら、働き方を決め直していい
治療開始時には続けられそうだと思っていても、通院が重なるうちに、
帰宅後まで疲れが残ることがあります。
照射部位による症状が強くなったり、集中力が続かず、
運転や機械操作に不安を感じたりすることもあるかもしれません。
そのときは、最初に決めた働き方を守り続けることより、今の状態に合わせて見直すことが大切です。
病院では、次のように伝えられます。
治療開始時は働けていましたが、今は帰宅後も疲れが残り、仕事中の集中が続きません。
勤務時間や仕事内容を見直したほうがよい状態か、相談したいです。
放射線治療中は、医師の定期的な診察があります。
診察日でなくても、診療放射線技師や看護師へ伝えると、必要に応じて医師につないでもらえます。
職場へは、体調が変わってから初めて伝えるよりも、治療開始前に
「途中で見直しを相談する可能性があります」
と共有しておくと、次の話を始めやすくなります。
今日決めるのは、「辞めるかどうか」でなくていい
放射線治療と仕事を両立できるかは、治療名だけでは決まりません。
だから、治療予定表を受け取った日に、これから先の働き方をすべて決めなくていいのです。
まず確認するのは、
- 自分の治療に、どのくらいの通院時間が必要か
- 自分の仕事のどこに、負担や安全面の心配があるか
- 職場で使える制度や調整方法があるか
この3つです。
次に病院へ行ったときは、
「仕事を続けたいと思っています。私の仕事内容を伝えてもいいですか」
と話してみてください。
その一言から、今のあなたに合う働き方を考えるための材料が集まり始めます。
仕事の悩みも、治療を続けるために病院が一緒に考える大切な相談ごとの一つです。
※この記事は、外来で外部照射を受ける方を中心に、放射線治療と仕事の両立に関する一般的な情報を整理したものです。診断、治療方針、就業の可否、職場での措置を決めるものではありません。治療の負担や必要な配慮は、照射部位、治療内容、併用療法、体の状態、仕事内容によって異なります。ご自身の治療と働き方については、主治医や放射線治療のスタッフ、職場の上司・人事・産業保健スタッフ、がん相談支援センターなどへご相談ください。

