「階段をのぼると、前より息が切れる気がする」
「乾いた咳が、なかなか止まらない」
「風邪でもないのに、微熱が続いている」
肺や胸のあたりに放射線治療を受けている、あるいは受けたあとに、こんなふうに感じる方がいらっしゃいます。
治療のあいだは体のいろいろな変化に気を張っていても、
治療が終わってしばらくしてから咳や息切れが出てくると、
「これは治療のせいなのか、風邪なのか」
「どこに相談すればいいのか」
と、迷ってしまいますよね。
しかも、「肺炎」という言葉を聞くと、それだけで不安が大きくなる方もいると思います。
この記事では、肺や胸のあたりへの放射線治療のあとに起こることがある咳や息切れについて、
家で気をつけたいことと、早めに相談したほうがいい変化の見分け方を、
元放射線治療室の看護師の視点で整理します。
読み終わったときに、
「今の自分の状態は、様子を見ていいのか、相談したほうがいいのか」
を少し判断しやすくなることを目指しています。
呼吸に関わることは、早めに気づいて相談することが大切な場面があります。
咳や息切れは、なぜ起こることがあるのか
肺や胸のあたり(肺がん、乳がんの一部、食道がんなど)への放射線治療では、
がんに放射線を当てるとき、どうしても周りの正常な肺の一部にも放射線が当たることがあります。
その影響で、肺に炎症が起こることがあります。
医療者はこれを
「放射線肺炎(ほうしゃせんはいえん)」や「放射線肺臓炎」
と呼ぶことがあります。
ここで、知っておいてほしいことがあります。
この症状は、
治療の後半から、治療が終わって1〜6か月ほどたったころに出てくることがある、という点です。
治療中よりも、むしろ「終わってしばらくしてから」気になり始める方もいます。
だからこそ、
「治療はもう終わったのに、今ごろ咳が出るなんておかしいのかな」
と思わなくて大丈夫です。
治療が終わってからでも起こり得ます。
そして、原因は放射線だけとは限りません。
もともと肺に持病(たとえば喘息や、慢性の肺の病気)がある方や、
一部の抗がん剤を併用している方では、症状が出やすいことがあるといわれています。
また、ただの風邪や、別の感染症が重なっていることもあります。
つまり、咳や息切れがあるからといって、すぐに「放射線肺炎だ」と決まるわけではありません。
だからといって、「たかが咳」と決めつけることも良くありません。
自己判断せず、症状を相談することが大切です。
どんな症状が出ることがあるか
放射線肺炎で出ることがある症状には、次のようなものがあります。
- 乾いた咳(痰をあまり伴わない、コンコンという空咳が多い)
- 息切れ、息苦しさ(最初は階段や坂道など、動いたときだけのことが多い)
- 発熱
- 胸の痛み
- 体のだるさ
特に、乾いた咳と息切れは、気づきやすい症状です。
息切れは、はじめは「動いたときだけ」感じることが多いのですが、
進んでくると、じっとしているときにも感じるようになることがあります。
「だんだん強くなっているかどうか」も、あとで説明する相談の目安の一つになります。
家で気をつけたいこと
呼吸に関わる症状は、皮膚のケアのように「家で対処する」というより、
「変化に気づいて、相談する」ことが中心になります。
そのうえで、家で気をつけられることを挙げておきます。
- 咳や息切れが「いつから」「どんなときに」出るか、簡単にメモしておく
- 息切れが、動いたときだけか、じっとしていても感じるか、意識してみる
- 熱が出たら、いつから何度くらいか、記録しておく
- 喫煙は肺に負担をかけるため、治療医から禁煙や節煙をすすめられている場合は、その指示に従う
- 人混みや感染症に気をつける(風邪などが重なると、見分けがつきにくくなるため)
無理に運動することは避け、息苦しいときは、体を休めてください。
大事なのは、頑張って乗り切ることではなく、変化を見て、変化があれば相談することです。
様子を見ていいこと、相談したほうがいいこと
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
呼吸に関わる症状は、早めに気づいて相談すると、対応の選択肢が広がることがあります。
放射線肺炎は、炎症を抑える薬(ステロイド)が効くことがあり、早めの対応に意味がある症状です。
そのうえで、「様子を見ていい変化」と「相談したほうがいい変化」を分けておきます。
様子を見ながら、次の診察で伝えればよいことが多いもの
- ごく軽い咳が、たまに出る程度
- 動いたときに少し息が切れるが、休むとすぐ戻る
- 熱はなく、日常生活に大きな支障はない
こうした場合でも、気になるなら次の診察のときに
「最近、軽い咳が出ます」「動くと少し息が切れます」
と伝えておくと、経過を見てもらえます。
次の診察を待たずに、相談したほうがいいもの
次のような変化があるときは、次の診察を待たずに、治療を受けた病院へ相談してください。
- 乾いた咳が、だんだん強くなっている、または止まらない
- 息切れが、前より強くなってきた、じっとしていても感じるようになった
- 微熱が続いている
- 胸の痛みが出てきた
これらは、肺の炎症が関係していることがあります。
早い段階で相談したほうが、対応しやすくなることがあります。
すぐに連絡したほうがいいもの
次のような場合は、様子を見ずに、早めに病院へ連絡してください。
- 高い熱が出た
- 息苦しさが強い、少し動いただけでも息が切れて苦しい
- 呼吸がハアハアと浅く速くなる
高熱とひどい息切れがそろったときは、重症化のおそれがあります。
放射線肺炎は、炎症がひどい場合には命に関わることもある症状です。
「様子を見よう」ではなく、早めの連絡が大切です。
多くの場合は、ゆっくりした変化です。
焦る必要はないのですが、
「おかしいと思ったら、遠慮なく連絡していい」と覚えておいてください。
診察で伝えるときのコツ
呼吸の症状は、言葉だけでは伝えにくいことがあります。
次のことをメモ(診察メモ記事)していくと、伝わりやすくなります。
「治療のあと、乾いた咳が2週間くらい続いていて、階段で息が切れるようになりました」
——このように具体的に伝えられると、医療者も状態を判断しやすくなります。
息切れの程度は、
「前は一気に階段を上れたのに、今は途中で休む」というように、
前と比べてどう変わったかで伝えると分かりやすいです。
治療が終わっても、相談していい
放射線治療が終わると、「もう終わったこと」と、自分でも周りでも思いがちです。
でも、これまで見てきたように、
肺の症状は治療が終わってしばらくしてから出てくることがあります。
「治療は終わったのに、こんなことで連絡していいのかな」
と迷わなくて大丈夫です。(治療後に続く体調についての記事)
むしろ、治療後に出てくる変化こそ、治療を受けた病院に相談してほしい症状です。
定期の診察が先の場合でも、気になる呼吸の変化があれば、その前に連絡していいのです。
放射線治療室で働いていたころ、治療が終わったあとの体の変化を「相談していいのか分からなくて」と、ためらう方をたくさん見てきました。呼吸のことは、ためらわず相談していい。そこは、はっきりお伝えしておきたいところです。
相談先
咳や息切れで気になることがあるときは、
まずは主治医、もしくは放射線治療を受けた病院(治療医・看護師)に相談してください。
治療について分からないことや不安があるときは、
全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」でも相談できます。
治療を受けた病院以外の窓口として、覚えておくと心強い場所です。
おわりに
肺や胸への放射線治療のあとの咳や息切れは、治療が終わってしばらくしてから出てくることがあり、一人で「風邪かな」「気のせいかな」と抱えてしまいやすい症状です。
でも、様子を見ていい変化と、早めに相談したほうがいい変化の目安を知っておくだけで、
「今、どうすればいいか」が少し見えやすくなります。
今日のこの記事で、一つだけ持ち帰ってもらえるとしたら
——「乾いた咳や息切れがだんだん強くなる、高熱と息苦しさがそろう、と感じたら、様子を見ずに病院へ連絡していい」。
呼吸のことは、これだけでも覚えておいてもらえたらうれしいです。
気になる変化があるときは、我慢しすぎず、相談材料として整理しておいてくださいね。
※この記事は、放射線治療を受けた方の一般的な情報を、元看護師の視点で整理したものです。症状の感じ方や必要な対応は、受けた治療の内容や体の状態、もともとの持病によって一人ひとり異なります。診断や治療方針を示すものではありません。気になる変化があるときは、自己判断せず、治療を受けている医療機関にご相談ください。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「呼吸困難・咳・痰」
- ファイザー「がんを学ぶ」肺がんの放射線療法

