「治療が始まってから、なんだか吐き気がして食べられない」
「食欲がわかず、食事がすすまない」
「下痢が続いてつらい」
お腹(胃や腸のあたり)に放射線治療を受けている、あるいは受けたあとに、
こんなふうに感じることはありませんか。
食べられない日が続くと、
「このままで体力がもつのかな」
「治療は続けられるのかな」
と、心配になりますよね。
まわりからは「しっかり食べて」と言われても、食べたくても食べられない。
そのつらさは、なかなか分かってもらいにくいものです。
この記事では、お腹への放射線治療のあとに起こることがある吐き気・食欲不振・下痢について、
家でできる工夫と、早めに相談したほうがいい変化の見分け方を、
元放射線治療室の看護師の視点で整理します。
読み終わったときに、
「今の自分の状態は、様子を見ていいのか、相談したほうがいいのか」
を少し判断しやすくなることを目指しています。
全部を一度に読まなくても大丈夫です。
気になるところから見てみてください。
吐き気や食欲不振、下痢は、なぜ起こることがあるのか
まず知っておいてほしいのは、これらの症状の起こり方には、
いくつかのパターンがある、ということです。
治療が始まってすぐの、だるさやむかつき
放射線治療を始めて早い時期に、だるさ、むかつき、食欲が落ちる、
といった症状が出ることがあります。
医療者はこれを「放射線宿酔(ほうしゃせんしゅくすい)」と呼ぶことがあります。
妊娠中のつわりのような感じ、と例えられることもあります。
これは、治療を始めて数日から10日ほどで、落ち着いてくることが多いといわれています。
だからといって我慢する必要はありませんが、
「治療の最初に出やすい体の反応」
と知っておくと、少し気持ちが違うかもしれません。
お腹への照射による、消化管への影響
お腹に放射線を当てると、がんの周りにある胃や腸も、影響を受けることがあります。
腸は、放射線の影響を受けやすい部分です。
そのため、吐き気、食欲不振、下痢などが起こることがあります。
下痢については、治療を始めて2〜4週間ほどたったころに出てくることが多いといわれています。
ただし、時期には個人差があります。
そして大事なことですが、原因は放射線だけとは限りません。
抗がん剤を一緒に使っている場合は、その影響も重なることがあります。
もともとの胃腸の状態や、食事、心理的な負担なども関係することがあります。
だから、症状があるからといって、自分で原因を決めつけないほうが良いです。
家でできること:食事と水分の工夫
つらい症状があるときの、家でできる工夫をお伝えします。
ただし、これは「治療」ではなく、生活の中で少しでも楽にするための工夫です。
強い症状があるときや迷うときは、あとで説明する相談の目安を先に見てください。
食べられないときの、食事の工夫
- 一度にたくさん食べようとせず、少しずつ、回数を分けて食べる
- 食べられそうなものを、食べられるときに食べる(無理に「バランス良く」を目指さなくて大丈夫)
- においで気持ち悪くなるときは、冷たいものや、においの少ないものを試す
- 温かいごはんのにおいがつらいときは、少し冷ましてから食べる
「これを食べなければ」と気負うと、かえって食べられなくなることがあります。
今日食べられたものが一つあれば、それで十分な日もあります。
下痢のときの、水分のとり方
下痢が続くと、体から水分と、体に必要な成分(電解質)が失われます。
そのため、水分をこまめにとることが大切です。
- 水分は、少しずつ、こまめにとる
- 冷たすぎるものは、お腹に刺激になることがあるので、常温くらいがよい
- 経口補水液やイオン飲料など、水分と一緒に体に必要な成分がとれるものも選択肢になる
- 脂っこいもの、香辛料の強いもの、冷たすぎるものは、お腹に負担になることがある
ただし、下痢がひどいときや続くときは、家での対処だけで様子を見ず、相談してください。
下痢止めや整腸剤が必要なこともあり、それは医療者に相談して処方してもらうものです。
自己判断で市販薬を使う前に、一度相談すると安心です。
様子を見ていいこと、相談したほうがいいこと
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
お腹の症状は、早めに気づいて対応すると、その後が楽になることがあります。
だからこそ、
「様子を見ていい変化」と「相談したほうがいい変化」を分けて知っておいてほしいのです。
様子を見ながら、次の診察で伝えればよいことが多いもの
- 軽いむかつきや食欲の低下があるが、水分はとれていて、少しは食べられる
- 治療の最初の時期の、一時的なだるさやむかつき
- 下痢が軽く、水分がとれていて、生活に大きな支障はない
こうした場合でも、気になるなら次の診察のときに
「最近、食欲が落ちています」
「軽い下痢が続いています」
と伝えておくと、経過を見てもらえます。
次の診察を待たずに、相談したほうがいいもの
次のような変化があるときは、次の診察を待たずに、治療を受けた病院へ相談してください。
- 下痢が1日に何度も続いて、おさまらない
- 吐き気が強く、食事も水分もほとんどとれない
- 食べられない日、水分がとれない日が続いている
- お腹の痛みが強くなってきた
食事や水分が「とれているか」「減り続けていないか」は、大切な目安です。
数日単位で減っているなら、待たずに相談して大丈夫です。
すぐに連絡したほうがいいもの
次のような場合は、様子を見ずに、早めに病院へ連絡してください。
- 便に血が混じる、血便が続く
- 水分がまったくとれず、尿がはっきり減っている
- 強い腹痛がある
- 高い熱をともなう
便に血が混じる状態は、
腸に炎症が起きているサイン(医療者が「放射線性腸炎」と呼ぶことがあります)のことがあります。
水分がとれず尿が減るのは、体の水分が足りなくなっているサインのことがあります。
どちらも、早めの連絡が大切です。
多くの場合は、治療とともに付き合っていける症状です。
ただ、「血便」「水分がとれない」「強い腹痛」がそろったときだけは、
様子見ではなく連絡、と覚えておいてください。
診察で伝えるときのコツ
お腹の症状は、言葉だけでは伝えにくいことがあります。
次のことをメモしていくと、伝わりやすくなります。(診察前メモ記事もぜひ参考にしてください)
- いつから症状があるか
- 食事は、どのくらい食べられているか
- 水分は、とれているか
- 下痢は、1日に何回くらいか
- 便に血が混じっていないか
- お腹の痛みはあるか
「治療が始まってから食欲がなくて、1日1食くらいしか食べられていません」
「軽い下痢が1週間続いています」
——このくらい具体的に言えると、医療者も状態を判断しやすくなります。
食べた量や、下痢の回数を、簡単に記録しておくのもいい方法です。
数字で伝えられると、変化が分かりやすくなります。
一人で抱えず、食べられない自分を責めないで
食べられない日が続くと、「もっと食べなきゃ」「食べられない自分が情けない」と、
自分を責めてしまう方がいます。
でも、食べられないのは、あなたの頑張りが足りないからではありません。
治療の影響で、体がそういう状態になっているからです。
放射線治療室で働いていたころ、「食べたいのに食べられなくて、つらい」と話される方を、
たくさん見てきました。
気合いで食べようとして、かえって吐いてしまう方もいました。
だからこそ、無理に食べようとするより、食べられるものを、食べられるときに、少しずつ。
それで十分な時期がある、とお伝えしたいです。
食事のことで気持ちが追い詰められそうなときは、
その気持ちも含めて、医療者に話してみてください。
栄養の相談ができる専門職(管理栄養士)につないでもらえることもあります。
味やにおいなどの副作用でつらいときにできる工夫もまとめているのでぜひ参考にして見てください。
相談先
吐き気や食欲不振、下痢で気になることがあるときは、
まずは治療を受けた病院(主治医・看護師)に相談してください。
吐き気止めや、下痢の薬、食事の工夫など、相談できることがあります。
栄養士による食事の相談ができる病院もあります。
治療について分からないことや不安があるときは、全国のがん診療連携拠点病院などにある
「がん相談支援センター」でも相談できます。
治療を受けた病院以外の窓口として、覚えておくと心強い場所です。
おわりに
お腹への放射線治療のあとの吐き気や食欲不振、下痢は、
「食べられない自分」を責めてしまいやすく、一人で抱え込みやすい症状です。
でも、様子を見ていい変化と、早めに相談したほうがいい変化の目安を知っておくだけで、
「今、どうすればいいか」が少し見えやすくなります。
今日のこの記事で、一つだけ持ち帰ってもらえるとしたら
「食事や水分が減り続けている、血便が出たら、次の診察を待たずに病院に相談していい」
これだけでも、覚えておいてもらえたらうれしいです。
気になる変化があるときは、我慢しすぎず、相談材料として整理しておいてくださいね。
※この記事は、放射線治療を受けた方の一般的な情報を、元看護師の視点で整理したものです。症状の感じ方や必要な対応は、受けた治療の内容や体の状態、もともとの持病によって一人ひとり異なります。診断や治療方針を示すものではありません。気になる変化があるときは、自己判断せず、治療を受けている医療機関にご相談ください。
参考情報
- 国立がん研究センター東病院「抗がん剤と放射線療法による吐き気と食事」
- 静岡がんセンター「がん体験者の悩みQ&A」

