がん治療の医療費はいくらかかる?高額療養費制度と自己負担を元看護師が解説

がん治療の医療費と自己負担額、使える公的制度を解説する記事 放射線治療

「先生から説明を受けたのですが、治療費はどのくらいかかりますか?」

放射線治療の説明が終わったあと、患者さんやご家族から何度も聞かれた質問です。

病気のことも不安。
治療のことも不安。

でも、頭の片隅にはずっとお金のことがある。

それは決しておかしなことではありません。

治療を続けていくためには、体のことだけでなく、治療費や生活費について現実的に考えることも大切だからです。

私は看護師として15年間、がんの患者さんが多く入院する病棟や、放射線治療室、抗がん剤治療室で働いてきました。

その中で、治療費がどのくらいかかるのか分からず、不安を抱えている患者さんやご家族を何人も見てきました。

正直に言うと、がん治療にかかるお金は、医療費だけではありません。

病院で支払う治療費のほかにも、交通費、入院中の生活費、仕事を休むことによる収入の減少など、さまざまな負担があります。

ただ、使える制度を知っておくことで、負担を減らせることもあります。

この記事では、次のことを分かりやすくお伝えします。

  • がん治療にかかるお金の全体像
  • 高額療養費制度の仕組み
  • 窓口での支払いを抑える方法
  • 仕事を休むときに確認したい傷病手当金
  • 医療費控除について
  • 加入中の民間保険を確認するときのポイント
  • 医療費や生活費について相談できる場所

お金のことで一人で悩んでいる方に、少しでも見通しを持ってもらえたらと思います。

※本記事の制度情報は、2026年6月18日時点のものです。高額療養費制度は2026年8月から見直しが予定されているため、実際に利用する際は、加入している健康保険や厚生労働省の最新情報をご確認ください。 


がん治療の医療費は、一律に「いくら」とは言えません

「がん治療には、結局いくら必要なんですか?」

一番知りたいのは、そこだと思います。

ただ、がん治療にかかる金額は、がんの種類や進行度だけでは決まりません。

同じがんであっても、次のような条件によって大きく変わります。

  • 手術を受けるか
  • 入院が必要か
  • 放射線治療を受けるか
  • どの薬を使用するか
  • 治療が何か月続くか
  • 保険診療以外の治療を選ぶか
  • 個室を利用するか

そのため、「早期がんなら○万円」「進行がんなら○百万円」と、ステージだけで一律に示すことはできません。

まず知っておいてほしいのは、がん治療にかかるお金には、大きく分けて3つあるということです。

1.公的医療保険が適用される医療費

診察、検査、手術、放射線治療、薬物療法など、公的医療保険が適用される治療費です。

一般的な現役世代の方は、医療費の3割を窓口で負担します。

ただし、負担額が高額になった場合は、後ほど解説する「高額療養費制度」を利用できる可能性があります。

2.高額療養費制度の対象にならない費用

次のような費用は、原則として高額療養費制度の対象になりません。

  • 差額ベッド代
  • 入院中の食事代
  • 先進医療の技術料
  • 診断書などの文書料
  • 入院中の日用品
  • 通院の交通費

特に個室を利用した場合の差額ベッド代は、入院期間が長くなるほど負担が大きくなります。

3.治療によって生じる生活上の負担

見落とされやすいのが、病院の外でかかるお金です。

  • 通院のための電車代やガソリン代
  • 遠方の病院に通うための宿泊費
  • 食事を作れないときの宅配食や総菜代
  • ウィッグや帽子などの購入費
  • 家事代行やベビーシッターの費用
  • 仕事を休むことによる収入の減少

放射線治療では、数週間にわたって平日に毎日通院することがあります。

治療そのものは外来で受けられても、交通費や仕事への影響が積み重なり、大きな負担になることもあるんですよね。


高額療養費制度を使うと、自己負担はいくらになる?

がん治療で医療費が高額になったとき、必ず確認してほしいのが「高額療養費制度」です。

高額療養費制度とは、1か月に支払った保険診療の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限を超えた場合に、超えた分が支給される制度です。

ここでいう「1か月」は、治療を始めた日から30日間ではありません。

毎月1日から末日までで計算されます。

たとえば、入院が4月25日から5月10日までだった場合、4月分と5月分に分けて計算されます。 

医療費が100万円かかった場合の例

2026年7月までの制度で、次の条件を例に考えてみます。

  • 70歳未満
  • 年収約370万円から約770万円
  • 窓口負担3割
  • 同じ月の保険診療の総医療費が100万円

3割負担の場合、通常の窓口負担は30万円です。

しかし、高額療養費制度を利用した場合の自己負担上限は、次の式で計算されます。

80,100円+(総医療費100万円-267,000円)×1%

この例では、保険診療分の自己負担上限は87,430円です。

つまり、30万円すべてが最終的な自己負担になるわけではありません。

ただし、差額ベッド代、入院中の食事代、保険適用外の治療費などは、この87,430円には含まれません。 

また、自己負担上限は年齢や所得区分によって異なります。

2026年8月以降は所得区分や上限額の見直しが行われるため、実際の金額は加入している健康保険へ確認してください。 


高額療養費制度があっても、月をまたぐと負担が増えることがあります

高額療養費制度で気をつけたいのが、「月ごとに計算される」という点です。

たとえば、同じ治療費でも、1か月の中で治療が完了した場合と、2か月に分かれた場合では、自己負担額が変わることがあります。

もちろん、治療日程をお金だけで決めることはできません。

病状や治療効果、安全性が最優先です。

ただ、「高額療養費制度は月単位で計算される」ということを知っているだけでも、請求額を見たときの混乱を減らせます。

また、直近12か月の間に高額療養費制度の対象となった月が3回以上ある場合、4回目以降の自己負担額が軽減される「多数回該当」という仕組みもあります。

治療が長期間続く方は、加入している健康保険に「多数回該当になりますか」と確認してみてください。 


窓口で高額な金額を払わないための方法

高額療養費制度は、あとから払い戻しを受けることもできます。

ただ、いったん窓口で数十万円を支払うのは、家計にとって大きな負担ですよね。

窓口での支払いを最初から自己負担限度額までに抑える方法には、主に次の2つがあります。

マイナ保険証を利用する

対応している医療機関でマイナ保険証を利用し、限度額情報の提供に同意すると、原則として「限度額適用認定証」を事前に申請しなくても、窓口での保険診療分の支払いを自己負担限度額までに抑えられます。 

限度額適用認定証を取得する

マイナ保険証を利用できない場合などは、加入している健康保険に「限度額適用認定証」を申請し、医療機関に提示する方法があります。

申請先は、加入している保険によって異なります。

  • 協会けんぽ
  • 健康保険組合
  • 市区町村の国民健康保険窓口
  • 後期高齢者医療制度の窓口

入院や高額な治療の予定が分かった段階で、病院の窓口か加入している健康保険へ確認しておくと安心です。 


高額療養費制度の対象にならない費用も確認しておきましょう

高額療養費制度は、とても助かる制度です。

ただし、「どれだけお金がかかっても、上限額以上は払わなくてよい」という意味ではありません。

次の費用は、原則として対象外です。

  • 差額ベッド代
  • 入院中の食事代
  • 先進医療などの保険適用外の治療費
  • 診断書などの文書料
  • 通院の交通費
  • 日用品や衣類
  • 付き添う家族の交通費や宿泊費

そのため、医療費の上限だけを見て「これくらいなら大丈夫」と判断すると、実際の支出との差に驚くことがあります。

入院が決まったときは、病院に次のことを確認してみてください。

  • 入院期間の目安
  • 個室以外の病室を希望できるか
  • 食事代や日用品代の目安
  • 退院後も継続する治療があるか
  • 診断書の発行費用
  • 利用できる公的制度

分からないことを聞くのは、決して恥ずかしいことではありません。


仕事を休む場合は「傷病手当金」も確認してください

がん治療では、医療費だけでなく、仕事を休むことによる収入の減少も大きな問題になります。

勤務先の健康保険の被保険者など、一定の条件を満たす方は「傷病手当金」を受け取れる可能性があります。

主な条件は、次のとおりです。

  • 業務外の病気やけがの療養であること
  • 仕事をすることができない状態であること
  • 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること
  • 休業中に給与が支払われていないこと

給与が一部支払われていても、傷病手当金より少ない場合は、差額が支給されることがあります。

支給額は、おおむね給与の日額の3分の2に相当する金額で、支給期間は通算1年6か月です。 

ただし、加入している健康保険や働き方によって対象になるかどうかは異なります。

勤務先の人事・総務担当者や、加入している健康保険に確認してください。


1年間の医療費が多かったら、医療費控除を確認しましょう

医療費控除は、高額療養費制度とは別の制度です。

1月1日から12月31日までの1年間に、自分や生計を同じくする家族のために支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告によって所得税などの負担が軽くなる可能性があります。

一般的には、実際に支払った医療費から、保険金や高額療養費などで補てんされた金額を差し引き、さらに10万円を差し引いた金額が控除対象になります。

総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%が基準になります。 

医療費控除を申告する可能性がある場合は、次のものを保管しておきましょう。

  • 医療費の領収書
  • 医療費通知
  • 薬局の領収書
  • 通院日や交通費の記録
  • 保険金や給付金の支給内容が分かる書類

領収書は確定申告書に添付する必要はありませんが、自宅で5年間保管する必要があります。 

対象になる費用とならない費用があるため、詳しくは税務署や税理士へ確認してください。


加入中の民間保険は、治療前後に内容を確認しましょう

治療費の相談をしていると、患者さんから、

「保険に入っていて、本当に良かった」

と言われることがありました。

給付金の対象になると分かった瞬間、それまで表情が硬かった患者さんの肩の力が、ふっと抜けることがあったんです。

お金の見通しが立つことは、治療に向き合ううえで大きな安心につながります。

ただし、民間保険の給付条件は、保険会社、商品、契約した時期、約款の内容によって異なります。

放射線治療を受けたから必ず給付金が出る、入院したから必ず支払われる、とは限りません。

医療スタッフは治療内容や診断書について説明できますが、給付金が支払われるかどうかを最終的に判断するのは保険会社です。

支払いの対象になるか分からない場合は、保険会社へ直接確認することが勧められています。 

確認しておきたいのは、次の項目です。

診断一時金

がんと診断されたときに、まとまった給付金を受け取れる契約があるか確認します。

入院・手術給付金

入院日数や手術の種類によって、給付条件が決められていることがあります。

放射線治療給付金

放射線治療が給付対象になっているか、どのような条件があるかを確認します。

古い契約では、現在の治療方法が約款上の支払条件に該当するか、個別の確認が必要になることもあります。

通院給付金

退院後や外来治療中の通院が対象になる契約もあります。

必要な書類

診断書が必要なのか、領収書や診療明細書で請求できるのかを確認します。

新しい保険へ入ることを急いで勧める必要はありません。

まずは、すでに加入している保険の内容を確認し、利用できる保障を漏れなく請求することが大切です。


医療費や生活費のことは、がん相談支援センターに相談できます

「制度がいろいろあって、何を使えるのか分からない」

「治療費だけでなく、仕事や生活費も心配」

そんなときは、がん相談支援センターを利用できます。

がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている相談窓口です。

患者さん本人だけでなく、ご家族や、その病院に通院していない方も、無料・匿名で利用できます。

看護師や医療ソーシャルワーカーなどが、次のような相談に対応しています。

  • 医療費や生活費について
  • 利用できる公的制度
  • 仕事と治療の両立
  • 家族の悩み
  • 治療後の生活
  • どこに相談すればよいか分からない不安

担当医に代わって治療方法を決める場所ではありませんが、状況を整理し、必要な相談先につないでもらうことができます。 

病院内の場所が分からない場合は、受付や看護師に、

「医療費について相談できる窓口はありますか?」

と聞いてみてください。


がん治療が始まる前後に確認したい5つのこと

すでに治療中の方も、これから治療が始まる方も、まずは次の5つを確認してみてください。

1.治療のおおまかな予定

手術、入院、放射線治療、薬物療法が、どのくらいの期間続く予定なのか確認します。

2.高額療養費制度の利用方法

マイナ保険証を使えるか、限度額適用認定証が必要かを、病院や加入している健康保険に確認します。

3.仕事を休む場合の制度

有給休暇、休職制度、傷病手当金など、利用できる制度を勤務先に確認します。

4.加入中の民間保険

診断一時金、入院、手術、放射線治療、通院が給付対象になるかを確認します。

5.領収書や書類を保管する

医療費控除や保険金請求に必要になる可能性があるため、領収書や診療明細書を一つのファイルにまとめておきます。

一度に全部やらなくても大丈夫です。

ご本人が動くのがつらい場合は、ご家族に手伝ってもらったり、病院の相談窓口を利用したりしてくださいね。


まとめ:がん治療のお金を一人で抱え込まないでください

がん治療にかかるお金は、治療内容や期間によって大きく異なります。

そのため、「がん治療なら総額○万円」と一律に考えることはできません。

ただ、使える制度や確認すべきことはあります。

覚えておいてほしいこと

治療費以外の負担もある

差額ベッド代、食事代、交通費、日用品、収入の減少など、保険診療以外の負担も考えておく必要があります。

高額療養費制度を確認する

保険診療の自己負担額には、年齢や所得に応じた月ごとの上限があります。

マイナ保険証や限度額適用認定証を利用する

窓口で一時的に高額な金額を支払わずに済む可能性があります。

仕事を休む場合は傷病手当金を確認する

勤務先の健康保険に加入している方は、対象になる可能性があります。

領収書を保管し、医療費控除を確認する

1年間の医療費が多かった場合、確定申告によって税負担が軽くなる可能性があります。

加入中の民間保険を確認する

新しい保険を探す前に、現在の契約で受け取れる給付金がないかを確認してください。

困ったら、がん相談支援センターへ相談する

患者さん本人だけでなく、ご家族も無料で利用できます。

お金のことを考えるのは、治療を諦めようとしているからではありません。

安心して治療を続けるために、必要な準備をしているということです。

「こんなことを相談してもいいのかな」と遠慮しなくて大丈夫です。

一人で抱え込まず、病院や公的な相談窓口を頼ってくださいね。

このブログでは、放射線治療中の食事についても書いています。

「口内炎がひどくて食べられない」
「何なら食べられるのか知りたい」

という方は、こちらの記事も参考にしてください。

👉 放射線治療の口内炎で食べられない…何なら食べられる?現場看護師が教える食事の乗り越え方


参考にした公的情報


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療、税務、保険などについて個別の判断を行うものではありません。

高額療養費制度や傷病手当金などの内容は、年齢、所得、加入している健康保険、勤務状況などによって異なります。また、制度改正によって内容が変更されることがあります。

具体的な治療費や利用できる制度については、加入している健康保険、勤務先、税務署、保険会社、病院の相談窓口などにご確認ください。

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