左乳がんの放射線治療で息止めが不安なとき

左乳がんの放射線治療で行う息止め(DIBH)が不安な方への解説記事 放射線治療

治療台に横になり、腕を上げた姿勢をつくる。

スタッフから聞こえてくるのは、

「大きく息を吸って、そのまま止めてください」

という合図です。

練習ではできたけれど、本番でも同じようにできるだろうか。

途中で苦しくなって息を吐いたら、心臓に放射線が当たってしまうのではないか。

毎日、同じところまで吸える自信がない。

左乳がんの放射線治療で息止めの方法を説明され、
治療そのものよりも「自分にうまくできるか」が気になっている方もいらっしゃると思います。

私が放射線治療室で働いていたときも、

お休みを挟むと
「やり方を忘れてしまった気がします」と話される方がいました。

そんなときは、合図や息の吸い方をもう一度確認してから進めていました。

息止めは、上手か下手かを試すテストではありません。

決められた呼吸の位置を、装置とスタッフが確認しながら照射するための工程です。

この記事では、左乳がんの放射線治療で息を止める理由、
一度でうまくできなかったときに照射がどう進むのか、
息止めがつらいときに何を伝えればよいのかを整理します。

左乳がんの放射線治療で、なぜ息を止めるのか

左側の乳房や胸壁の近くには、心臓があります。
体のつくりや照射する範囲によっては、通常の呼吸のまま治療すると、
心臓の一部にも放射線が当たることがあります。

心臓に当たる放射線の量をできるだけ減らす方法のひとつが、深吸気息止め照射です。

英語の頭文字を取って、DIBH(ディーアイビーエイチ)と呼ばれます。

大きく息を吸うと肺がふくらみ、乳房や胸壁と心臓の間に距離ができます。
その状態で照射することで、心臓に当たる放射線の量を減らせる場合があります。

心臓への影響は、治療を受けてすぐに表れるものだけではありません。
長い目で見た影響も考え、
治療計画では心臓に当たる線量をできるだけ少なくすることが大切にされています。

ただし、左乳がんの方全員がDIBHを行うわけではありません。
治療する範囲、乳房と心臓の位置関係、体の状態、病院の設備などによって、
適している方法は変わります。

息止めをしない通常呼吸での照射でも、
治療計画の段階で心臓に当たる線量をできるだけ抑える工夫が行われます。

DIBHを行わないから、心臓への配慮がされていないということではありません。

息は、一度に長く止め続けるわけではない

「息を止めて治療する」と聞くと、照射がすべて終わるまで、
ずっと我慢し続ける姿を想像するかもしれません。

実際には、1回の治療のなかで息止めと休憩を何回かに分けて行う方法が一般的です。

スタッフの合図に合わせて息を吸う。
決められた位置で止める。
照射が一区切りしたら、いつもの呼吸に戻す。
そして、次の合図でもう一度行う。

そのように分けて進みます。

何秒止めるのか、1回の治療で何回繰り返すのかは、
使う装置や治療計画、病院の進め方によって異なります。

ほかの方が「私は何秒だった」と話していても、その数字に合わせる必要はありません。

また、限界まで思いきり吸い込めばよいわけでもありません。

大切なのは、病院で決めた呼吸の位置を、治療のたびに再現しやすくすることです。

どこまで吸えばよいか分からないときは、自己判断で吸う量を増やさず、
スタッフの合図を確認してください。

本番の前に、呼吸を合わせる練習がある

DIBHを行う場合は、治療計画用のCT撮影や照射の前に、呼吸方法の説明や練習を行います。

どのタイミングで吸うのか。
どの位置で止めるのか。
いつ呼吸を戻すのか。
スタッフの声を聞きながら、実際の流れを確認していきます。

病院によっては、専用のゴーグルやモニターに表示された目印を見ながら、
自分の呼吸の位置を合わせる方法もあります。

一方で、スタッフの声だけで合わせるところや、別の装置で呼吸を確認するところもあり、
進め方は同じではありません。

最初から一度で感覚をつかめない方もいます。

「どこまで吸えばいいか、まだ分かりません」

そのひと言は、できていないことの報告ではなく、正確に治療を進めるために必要な情報です。

息止め以外も含めて、治療初日に何をするのか不安な方は、放射線治療の初日、当日はどう進む?流れと過ごし方⁠で、入室から退室までの流れをまとめています。

途中で息の位置がずれたら、どうなるのか

ここが、いちばん心配なところかもしれません。

「途中で息を吐いてしまったら、ずれたまま放射線が当たり続けるのではないか」

DIBHでは、照射前や照射中に、
決められた深吸気の位置が保たれているかを確認しながら治療を進めます。

確認には、呼吸を測る装置、体の表面をカメラで捉える仕組み、画像などが使われます。

設定した範囲から呼吸の位置が外れると、放射線が自動で止まる機能を備えた装置もあります。

ただし、すべての病院・すべての装置が同じ仕組みではありません。

スタッフが確認して照射を止める方法もあります。

日本放射線腫瘍学会のガイドラインでは、
深吸気の位置が維持されなかった場合は照射を一時停止し、
照射中は患者さんを監視して、必要に応じて止められる体制を整えるよう示されています。

つまり、息止めは患者さん一人の感覚だけに任せて進めるものではありません。

呼吸の位置を確認し、合わなければ照射を止めて整え直すところまでが、
治療側の安全管理に含まれています。

「一度ずれたから、今日の治療は全部失敗した」と自分で判断する必要はありません。

そのあとの照射をどう進めるかは、治療室のスタッフが状態を確認して決めます。

放射線が見えないことや、別室からどのように確認されているのかが不安な方は、放射線治療が「見えない」から怖いとき⁠も参考にしてください。

息が続かない日や、息止めがつらいとき

前日はできていても、その日はいつもより息が続きにくいことがあります。

緊張して合図と呼吸が合わない日もあれば、腕を上げた姿勢の痛みや咳などで、
息を止めることに集中しづらい場合もあります。

苦しいのに、前回と同じ時間まで無理に我慢する必要はありません。

まずは治療前に、

「今日は、いつもより息が続きにくいです」

と伝えてください。
いつもと違うことが分かれば、スタッフは呼吸の合わせ方や休む間隔、
その日の進め方を検討できます。

途中で苦しくなったときの対応や合図は、施設によって異なります。

治療台に横になる前に、
「途中で息が苦しくなったら、どうすればいいですか」

と確認しておくと、我慢の限界まで一人で迷わずに済みます。

DIBHを続けることが難しい場合は、通常呼吸での照射を含め、
別の方法が適しているかを治療チームが検討することもあります。

息止めが難しいことを、患者さん自身の努力不足として抱える必要はありません。

治療方法を考えるための情報として、そのまま伝えてください。

なお、

治療中だけでなく普段の生活でも息苦しさが新しく出た、急に強くなった、
胸の痛みなどほかの症状もある場合は、次の治療日を待たず、
今かかっている医療機関へ連絡してください。

何と伝えればよいか迷ったときの言葉

うまく説明しようとしなくても、困っている場面をそのまま言葉にすれば十分です。

  • 「息をどのくらい吸えばいいか、まだ分かりません」
  • 「合図と呼吸のタイミングが合いません」
  • 「毎回、同じ位置で止められているか不安です」
  • 「今日は、いつもより息が続きません」
  • 「途中で苦しくなったら、どうすればいいですか」
  • 「息止めを続けるのがつらいです。ほかの方法も含めて相談できますか」

どの言葉も、治療室のスタッフが状況を確認するための手がかりになります。

自宅でも息止めの練習をしたほうがよい?

病院から自宅での練習方法を案内された場合は、その方法に沿って行ってください。
ただし、自己流で長い時間を競うように止める必要はありません。

DIBHで求められるのは、誰より長く止めることではなく、
病院で設定した位置に呼吸を合わせることです。

練習中に苦しさやめまいを感じたら中止し、次回の受診時に伝えてください。

自宅で何を練習すればよいか分からない場合は、
「家では、どのように練習すればいいですか」と治療スタッフに確認しましょう。

おわりに

左乳がんの放射線治療で行うDIBHは、深く息を吸って乳房や胸壁と心臓の間に距離をつくり、
心臓に当たる放射線の量を減らすための方法です。

けれど、患者さんが一人で完璧な息止めを成功させなければ治療できない、
というものではありません。

呼吸の位置を装置やスタッフが確認し、合わないときは止めて整え直しながら進めます。

次の治療前に、ひとつだけ確認するとしたら、

「途中で苦しくなったら、どうすればいいですか」

この言葉で十分です。

息止めは、我慢の強さを試すものではありません。スタッフと合図を合わせ、正確に照射するための治療の一工程です。分からなくなったときは、その場でもう一度確認しながら進めてください。

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※この記事は、放射線治療を受ける方の不安を整理するための一般的な情報です。診断や治療方針を決めるものではありません。DIBHを行うかどうか、息を止める時間や回数、呼吸の確認方法、照射を止める仕組みは、治療内容・体の状態・使用する装置・病院の運用によって異なります。実際の進め方は、治療を受けている医療機関でご確認ください。

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