放射線治療の説明を受けた帰り道。
手帳を開いて、これからの予定を書き込んでいく。
月曜、火曜、水曜、木曜、金曜。
次の週も、その次の週も。
「全部で25回です」
そう言われたときは、うなずいていました。
でも、カレンダーに書き出してみると、数の多さがあらためて目に入ってきます。
「こんなに通うの?」
「1回でまとめて当てられないのかな」
「回数が多いってことは、私は重いのかな」
放射線治療室では、こうした声を何度も聞いてきました。
元がん放射線療法看護認定看護師として、
放射線治療を受ける方とご家族に関わってきた立場から、この「なぜ毎日なのか」を整理します。
先に結論をお伝えします。
放射線治療を何回にも分けるのは、正常な組織を守りながら、がんに必要な量を届けるためです。
回数の多さは、病気の重さを表すものではありません。
この記事では、なぜ分けて当てるのかという仕組み、1回の治療にかかる時間、
土日が休みになる理由、そして効果をどのように確かめるのかまでをまとめます。
1回でまとめて当てない理由
放射線は、長く浴びるほど効くというものではありません。
治療で決まっているのは、時間ではなく「量」です。
どこに、どの方向から、どれくらいの量を、何回に分けて当てるか。
この設計を、放射線腫瘍医を中心に、医学物理士や診療放射線技師などが関わって作ります。
では、その量を1日でまとめて当てないのはなぜでしょうか。
放射線は、がん細胞だけを選んで当たるわけではありません。
がんの周囲にある正常な組織にも、影響が及ぶことがあります。
そこで利用するのが、放射線で傷ついたDNAを修復する力の違いです。
一般に、正常細胞のほうが、がん細胞よりも傷を修復する力が強いとされています。
1回に当てる量を抑え、次の照射まで間をあける。
そうすることで、正常な組織が回復する時間を確保しながら、
がん細胞へのダメージを重ねていきます。
この当て方を、医療者は「分割照射」と呼ぶことがあります。
つまり、毎日通うのは、病院の都合でも、効率が悪いからでもありません。
間をあけることそのものが、治療の一部なのです。

回数が多い=重い、ではない
待合室で、こんな会話が生まれることがあります。
「私、30回なんです」
「私は5回で終わりって言われました」
そこで、「回数が多い自分のほうが、悪いのかな」と気になってしまう。
そう話される方は、少なくありませんでした。
でも、回数だけで病気の重さは決まりません。
治療の回数は、がんの種類、できている場所、治療の目的、当てる範囲、使う装置など、
いくつもの条件を組み合わせて決められます。
1回で終わる治療もあれば、数週間かけて進める治療もあります。
短い治療が軽く、長い治療が思い、という見方はできません。
国立がん研究センターの情報でも、治療期間は1日から2か月程度までさまざまだとされています。
幅があるのは、それぞれに合った形が選ばれているからです。
隣の人と回数を比べても、自分の病気の重さは判断できません。
1回の治療にかかる時間

もうひとつ、通いはじめてから気づくことがあります。
治療室にいる時間の長さです。
治療室にいる時間は、だいたい10分から30分ほどです。
その中身は、こんな流れになっています。
- 治療台に横になる
- 体の位置を合わせる
- 必要に応じて、画像などで位置を確認する
- 必要なら、また合わせ直す
- 照射
- 服を直して出る
このうち、放射線が実際に当たっている時間は、数分です。
つまり、時間の大半を使っているのは、放射線を当てることではなく、当てる場所を合わせることです。
その数分の間、どんなことが起こるのかこちらの記事に詳しくまとめてあります。
「まだかな」と感じていたあの数分は、毎回、同じ場所に正確に当てるために使われています。
治療の内容や装置、病院によって、流れも時間も変わります。
気になるときは、通っている病院で確認してみてください。
土日が休みなのは、計画のうち
予定表を見ると、平日は毎日なのに、土日と祝日は空いている。
「続けて当てたほうが効くのでは」
「休んだぶん、遅れてしまうのでは」
そう感じる方もいらっしゃいます。
けれど、この休みは、あとから差し込まれたものではありません。
日本放射線腫瘍学会の情報では、これまでの治療の積み重ねから、
週5回で進めることを前提に、1回に当てる量が決められているとされています。
土日の休みも含めて、はじめから組み立てられているということです。
同じ学会は、治療期間全体の中で数日程度の休みが入っても、
治療効果には大きな差がないと説明しています。
ただし、この説明は「数日程度」についてのものです。
長く中断した場合まで同じとは限りません。
体調や予定で通えない日は、自分で判断せず、病院へ連絡してください。
時間を調整できることもあります。
途中で休んだときに何が起こるのかは、放射線治療、休むと効果は落ちる?で詳しくまとめています。
効果は、いつ分かるのか
最終日。
「今日で終わりですよ」
そう言われても、体は昨日と同じ。
何かが変わった感じは、しない。
「これ、効いてるんですか?」
そう聞かれたことが、何度もありました。
体の外から当てる外部照射では、治療後に放射線が体の中に残ることはありません。
放射線でDNAに傷を受けたがん細胞は、その場ですべて消えるわけではありません。
細胞が分裂しようとするときに死滅していくため、効果が分かるまでには時間がかかります。
いつ、何をもって効果を確かめるかは、治療の目的や病状によって異なります。
画像検査や診察、血液検査、症状の変化で確認する治療もあります。
一方、手術後の再発を減らすための治療は、
短期間の検査で「効いた」と直接確かめるものではありません。
治療が終わった日は、予定していた照射を終えた日です。
ご自身の場合の確認方法や時期は、主治医に聞いてみてください。
毎日通う生活を、少し軽くする
仕組みが分かっても、通うことそのものが大変であることに変わりはありません。
治療は数分でも、家を出て、移動して、待って、着替えて、帰る。
気づけば半日が過ぎている。それが数週間続きます。
通っている方たちがしていた工夫を、いくつか挙げます。
- 通院の前後には、予定を詰め込まない
- どうしても必要な用事は、体が動きやすい時間帯にまとめる
- 待ち時間のために、羽織るものや読むものを持っていく
- 送り迎えや付き添いを頼める日は、頼る
- 帰宅して疲れているときは、家事を最小限にする
全部をやる必要はありません。
取り入れられそうなものを、ひとつずつで大丈夫です。
通院した日は、それだけでひとつの用事を終えたと考えていただいてかまいません。
診察で聞いてみていいこと
回数や期間について気になることがあれば、そのまま聞いていただいて大丈夫です。
たとえば、こんな聞き方があります。
回数を尋ねることは、治療を疑うことではありません。
自分が何を受けているのかを知っておくことは、通い続けるうえでの支えになります。
診察室で聞きそびれたときは、治療室の看護師や診療放射線技師に伝えてもかまいません。
聞きたいことを忘れてしまいそうなときは、診察前にメモしておく方法もあります。書き出しておくと、短い診察時間でも伝えやすくなります。
まとめ
カレンダーに並んだ数字は、我慢し続けなければならない日々ではありません。
- 多くの外部照射を分けて行うのは、正常な組織への影響を抑えながら、がんに必要な量を届けるため
- 正常細胞とがん細胞の、DNAの傷を修復する力の違いを利用している
- 回数の多さは、病気の重さを表すものではない
- 治療室にいる時間の多くは、正確に位置を合わせるために使われている
- 土日の休みは、はじめから計画に組み込まれている
- 効果を確かめる時期や方法は、治療の目的や病状によって異なる
毎日通うのは、大変なことです。
それでも、その一回一回には、設計された理由があります。
通いながら気になることが出てきたときは、次の診察を待たずに、治療にあたっているスタッフへ伝えてください。
※この記事は、公的機関や関連学会などの情報をもとに作成した一般的な情報です。
診断や治療方針を示すものではありません。回数や治療期間、効果の見通しは、お一人ずつ異なります。ご自身の治療については、通っている病院の医師や医療スタッフにご確認ください。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療の実際」
- 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)「放射線治療Q&A」
- SURVIVORSHIP.JP「がんの放射線治療について 体外照射」

