お風呂あがり、鏡の前に立ちます。
治療していた側の胸が、なんだか黒い。
赤いというより、茶色っぽい。日焼けのあとのような色。
反対側と並べて見ると、境目がはっきり分かります。
痛みはもうありません。ヒリヒリもしません。
でも、色だけが残っています。
「これ、このまま戻らないんだろうか」
家族には言いにくい。診察で聞くほどのことでもない気がする。
そんなふうに、鏡の前で一人で考えている方に向けて書きました。
私は看護師として約15年、うち約5年間は放射線治療に関わる認定看護師として働いてきました。
この記事では、色が変わる理由、色はどうなるのか、
そして色以外にも見ておくと良い変化を整理します。
色が残っているのは、放射線が残っているからではない
まず、たまに聞かれる誤解から。
色が残っているけど身体にも放射線が残っているのか?
体の外から放射線を当てる治療では、
治療が終わった時点で、体に放射線は残っていません。
そばにいる家族に影響することもありません。
では、なぜ色が変わるのか。
放射線が当たった皮膚では、治療の途中から炎症が起こってきます。
具体的には赤くなったり、ヒリヒリしたり、かさついたりする、といった変化です。
そして、
炎症が落ち着いたあとに、色だけが残ることがあります。
日焼けのあと、赤みが引いてから肌が黒くなるのと、見た目としてはよく似ています。
つまり、いま見えている色は、
放射線そのものが残っているとかではなく、治療して皮膚が反応したあとの状態です。
皮膚の状態、いつ元に戻るか

赤みやただれ、ヒリヒリ感などの皮膚炎は、治療終了後1か月程度でよくなってくることがあります。
ただし、黒ずみとして残った色素沈着は、それより長く続きます。
黒ずみが消えるまで1年以上かかることもあると説明されています。
この「1年」は、そこまでに必ず元の色へ戻るという期限ではありません。
個人差がとても多い部分です。
少しずつ薄くなる方もいれば、治療前との色の差が長く残る方もいます。
先月と比べて少しずつ変化しているか。
色以外に新しく変わったところはないか。
この期限で良くなるはずだと考えるのではなく、
経過がどうか、先月と比べてどうかを見ていくと良いでしょう。
色素沈着が残る間の皮膚ケア
黒ずみを早く落とそうとして、強く洗ったり、化粧品をいくつも塗ったりしようとしないことが大切です。
治療後の皮膚は、こすらないこと、保湿すること、紫外線から守ることが基本です。
直射日光を避ける
外出時、肌が露出する部分に放射線を当てていれば、日傘、帽子、長袖の上着などを使用して直射日光を避けるようにしましょう。
胸元は、自分では見えにくい場所です。
襟ぐりの開いた服や、海やプールでは、思っている以上に日が当たります。
赤みや傷が残る場合は、日焼け止めを使う前に治療を受けた病院へ確認してください。
こすって落とそうとしない
これは、やってしまいがちなことです。
色が気になると、お風呂で強めに洗ってしまいます。
ボディタオルでこすったり、スクラブを使ったり。
これは逆効果になることがあります。
摩擦は、それ自体が色素沈着の原因になります。
放射線が当たった皮膚は、しばらくのあいだ、汗や皮脂の分泌が減って乾燥しやすい状態が続きます。こすれば、乾燥と刺激が増えるだけです。
洗うときは、泡をのせて、押さえるように。
拭くときも、こすらずに押さえる。
治療中と同じやり方を、そのまま続けてください。
塗るものは、先に確認する

美白と書かれた化粧品や、市販の軟膏を使いたくなるかもしれません。
しかし、照射後の皮膚はデリケートです。
照射部位には自己判断で軟膏やクリーム、化粧品等をつけないで、
まず担当医や看護師に相談する方が良いです。
治療が終わったあとも、その皮膚はしばらく敏感な状態です。
使う前に、一度聞いてみると安心です。
治療中のスキンケアについては、放射線治療中の皮膚炎とスキンケアにまとめています。
色以外に新しい変化があるとき
色素沈着だけが残っている場合と、硬さやしこりなど別の変化も出ている場合では、
話が変わってくることがあります。
次のような新しい変化に気づいたときは、色のことと一緒に受診先へ伝えてください。
- 触ると硬いところがある
- 新しいしこりに気づいた
- 皮膚がへこんでいるところがある
- じくじくしている、または傷ができている
- 痛みが出てきた
- 色が急に濃くなった、または一部だけ変わってきた
自分で判断してしまわず、医療者に相談することが大切です。
「放射線のあとだから」と決めてしまうと、見てもらう機会がなくなってしまうことにつながります。
どこに相談すればいいか
治療後に皮膚や乳房の変化が気になったときは、乳腺外科や放射線治療科など、
現在経過を見てもらっている受診先へ伝えてください。
どこへ連絡すればよいか分からない場合は、治療を受けた病院の窓口へ確認します。
「もう治療は終わったのに」と遠慮しなくて大丈夫です。
治療後の変化について相談するのは、遅すぎることではありません。
診察前のメモの作り方は、がん治療の診察前メモにまとめています。無料のPDFも置いています。
見た目のことを、軽く扱わなくていい

最後に、一つだけ。
色のことを相談するのを、ためらう方がいます。
命に関わることではないから。痛くないから。もっと大変な人がいるから。
でも、毎日鏡で見るのは自分です。
着替えのたびに目に入ります。
温泉に行けない、と感じている方もいます。
見た目の変化を気にすることは、わがままではありません。
病院によっては、外見の変化についての相談窓口を持っているところもあります。
また、がん相談支援センターは、その病院に通っていなくても、どなたでも無料で相談できます。
がん相談支援センターは、診察の代わりになる場所ではありませんが、
見た目の悩みや相談先を整理したいときにも利用できます。
おわりに
皮膚の黒ずみは、治療によって起こった色素沈着です。
色が薄くなるまでには時間がかかり、1年以上続くこともあります。
いつまでに元に戻る、と一人ひとりに期限を決めることはできません。
だからこそ、早く落とそうとして強くこするのではなく、皮膚を刺激しないこと、
乾燥を防ぐこと、紫外線から守ることを続けながら経過を見ていきます。
治療が終わったあとも、自分の体を見たときに気になることがあれば、
そのことを診察で話して大丈夫です。
放射線治療が終わったら、皮膚もすぐに治療前の状態へ戻るわけではありません。
時間をかけて変わっていく皮膚を、急いで元に戻そうとせず、守りながら見ていく。
この記事が、そのための目安になればと思います。
この記事は、一般的な情報をまとめたものです。診断や治療方針を決めるものではありません。皮膚の状態や使用してよい製品は一人ひとり異なります。必ず治療を受けている医療機関にご相談ください。
参考情報
- 静岡県立静岡がんセンター「がん体験者の悩みQ&A 放射線治療による色素沈着(赤みや黒ずみ)が、なかなか消えない」
- 静岡県立静岡がんセンター「がん体験者の悩みQ&A 放射線の副作用による赤みや色素沈着など皮膚症状」
- 京都大学医学部附属病院 放射線治療科「乳房温存療法」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」

