シェルを作った、その帰り道。
顔から頭にかけて、自分の形に合わせた固定具。
はじめて着けたときの感触が、まだ残っている。
そして、思い出す。
「そういえば、髪、切ろうと思ってたんだった」
治療で抜けるなら、先に短くしておきたい。
夏なら、暑さもある。
長い髪が抜けていくのを見るのが、つらいから、という方もいます。
美容院を予約しようとして、ふと手が止まる。
「あれ、これ、切っていいのかな?」
診察では治療の説明に集中していて、美容院を予約する段階になって初めて迷うことがあります。
元がん放射線療法看護認定看護師として、放射線治療を受ける方に関わってきた立場から、
この疑問を整理します。
先にお伝えします。
髪を切る前に確認を。
髪を切る前に確認が必要なのは、シェルを作ったあとに、ロングヘアから短髪にするなど、
髪の量や長さが大きく変わると、固定する位置がずれることがあるためです。
すでにシェルを作った方は、美容院を予約する前に、放射線治療科へ確認してください。
シェルは、そのときの頭の形に合わせて作られている
頭に放射線を当てる治療では、放射線が正確に同じ場所に当たるように、
頭を固定する道具を使うことがあります。
顔から頭をおおう形のもので、「シェル」「マスク」などと呼ばれます。
シェルは、治療計画を立てるときの頭の形に合わせて作る固定具です。
公式の情報では、シェルを作ったあとにロングヘアから短髪にするなど、
髪の量や長さが変わると、固定する位置がずれることがあると説明されています。
そのため、髪型を大きく変える予定がある場合は、
シェルを作る前に医療スタッフへ伝えておくのがよいでしょう。
国立がん研究センターの情報でも、こう説明されています。
シェルを作ったあとに、ロングヘアを短髪にするなど髪の毛の量や長さが変わると、固定の位置がずれることがある。そのため、髪型を変えるのはシェルを作る前がよい。
つまり、髪型のことは「治療が始まってから考えること」ではなく、
シェルを作る前に決めておくことです。
これから作る方へ

まだシェルを作っていない段階でこの記事を読んでいる方は、ざひ参考にして欲しいです。
髪を短くしたい気持ちがあるなら、シェルを作る前に済ませておくのが、いちばん。
治療の説明を受けたときに、こう聞いてみてください。
- 「髪を短くしたいのですが、いつまでに切ればいいですか」
- 「シェルを作る前に切ったほうがいいですか」
- 「治療が始まってからでも切れますか」
頭部への放射線治療でも、髪が抜ける範囲や程度は、放射線が当たる場所、
方向、線量によって異なります。
頭髪全体が抜けるとは限りません。
切るか迷っている場合は、シェルを作る前に、
予想される脱毛の範囲を聞いてから決める方法もあります。
帽子やウィッグのことも、同じタイミングで相談できます。
医療用ウィッグを検討している方は、こちらの記事に、サイズや毛質、返品条件などをまとめています。
もうシェルを作ってしまった方へ
ここからが、この記事を読んでいる多くの方の状況かもしれません。
「切ってはいけません」ではありません。
国立がん研究センターの情報でも、治療の途中で髪型を変えたいときは、
放射線治療科の医師や看護師、診療放射線技師などに相談するように、と案内されています。
必要な対応は、どのくらい髪を切るのか、シェルの合い方、
照射する範囲や治療方法などによって変わります。
「少しなら影響しない」「必ずシェルを作り直す」と、一律には言えません。
美容院を予約する前に、どのくらい切りたいのかを治療室のスタッフに伝え、
固定への影響を確認してください。
何と言えばいいか

聞き方は、これだけで通じます。
「髪を○cmほど切りたいのですが、シェルの固定に影響しますか」
さらに具体的に伝えると、答えやすくなります。
- 「どのくらいまでなら切っても大丈夫ですか」
- 「毛先を整えるだけでも、確認したほうがいいですか」
- 「抜けてきたら、そのぶん位置は変わりますか」
診察のときでなくてもかまいません。
治療室に入ったときに、診療放射線技師に伝えても大丈夫です。
診察日でなくても、放射線治療科の看護師や診療放射線技師へ伝えても良いです。
まだ治療が始まっていない場合は、病院へ電話で確認してもよいでしょう。
聞きたいことを忘れてしまいそうなときは、診察前にメモしておく方法もあります。
治療の途中で抜けてきたとき
「髪を切らなくても、抜けたら量が変わるのでは」と思う方もいるかもしれません。
放射線治療による脱毛は、放射線が当たった部位に起こります。
どこの毛が抜けるのかについては、こちらの記事で詳しくまとめています。
国立がん研究センターでは、照射開始から10日後くらいに始まるとされていますが、
時期や程度には個人差があります。
治療の際は、固定具を使って同じ体位を再現します。
ただし、脱毛が進んでシェルがゆるく感じる、以前と当たり方が違うなどの変化があれば、
その日の照射前に伝えてください。
シェルの固定状態を確認し、必要な対応を医療スタッフが判断します。
「切りたい」の理由は、人それぞれ
髪を短くしたい理由は、ひとつではありません。
- 抜けた髪が落ちているのを見るのがつらいから
- 長いまま抜けるより、短いほうが気にならなそうだから
- 帽子やウィッグを使うときに、短いほうが収まりがよさそうだから
- 洗ったり乾かしたりする手間を減らしたいから
- 単純に、暑いから
どれも、十分な理由です。
「見た目のことなんて、今考えることじゃない」と、自分で後回しにしてしまう方がいます。
治療の回数や期間は、人によって異なります。
それでも、髪や外見のことは、治療中の生活に関わる大切なことです。
その間ずっと、鏡を見るたびに気になることを我慢し続けるのは、けっこう重たいことですよね。
髪のことを相談するのは、わがままではありません。
生活のことを相談するのと、同じです。
そして、こういう相談を受けるのも、治療にあたっているスタッフの仕事の一部です。
パーマ・カラーはしても良い?

パーマやカラーは、シェルの固定とは別に、頭皮の状態も考える必要があります。
頭部への放射線治療では、脱毛に加えて、頭皮に赤み、乾燥、ヒリヒリ感などが出ることがあります。
治療中にパーマやカラーをしたい場合は、行う前に治療スタッフへ確認してください。
国立がん研究センターは、治療後に髪が生えてきてから行う場合も、
頭皮に湿疹や傷がないことを確認し、薬剤が頭皮につかないよう美容室や理容室で
行うことを勧めています。
シャンプーの薬剤などが気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、
脱毛が始まったあとも、それまで使っていたシャンプーは使えるとされています。
強くこすらずに洗い、洗髪後はタオルで軽く押さえて水分を取ります。
頭皮に症状がある場合や、病院から個別の指示を受けている場合は、その指示に従ってくださいね。
まとめ
- 髪を切ること自体が放射線治療に悪いわけではない
- 問題になるのは、シェル(固定具)の位置がずれること
- シェルは、そのときの髪の量と長さを含めた頭の形に合わせて作られている
- 髪型を変えるなら、シェルを作る前がよい
- もう作ってしまった場合も、切ってはいけないのではなく、相談する
- 治療中に脱毛が進み、シェルの装着感が変わったときも、照射前に伝える
髪をどうするかを、治療の二の次にしなくても良いです。
毎日鏡を見る、あなたの生活の一部ですなのですから。
美容院を予約する前に、どのくらい切りたいのかを治療スタッフへ伝え、シェルへの影響を確認してみてくださいね。
※この記事は、公的機関の情報をもとに作成した一般的な情報です。
診断や治療方針を示すものではありません。固定具の種類や対応は、治療の内容や施設によって異なります。ご自身の治療については、必ず通っている病院の医師や医療スタッフにご確認ください。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「脱毛」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療の実際」
- 国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター「頭の脱毛編」

