朝、鏡の前に立つ。
今日は仕事に行く日。
いつもならファンデーションを塗って、眉を描いて、出かけます。
でも、今は顔に放射線を当てている。
すっぴんで人に会うのは気が重い。
かといって、いつもどおり塗っていいのかも分からない。
説明のときに聞いたような気もするけれど、はっきり覚えていない。
こういう迷いを抱えたまま、聞きそびれている方は少なくないと思います。
先にお伝えします。
メイクや化粧水を使ってよいかは、「顔だから」ではなく、「その場所が照射範囲に入っているか」と「通っている施設の指示」によって決まります。
顔に治療を受けているからといって、顔全体が使用禁止になるわけではありません。
一方で、「大丈夫だろう」と自分で判断してよい話でもありません。
私は看護師として約15年、うち約5年間は放射線治療に関わる認定看護師として働いてきました。
この記事では、まず自分の照射範囲をどう確かめるか、化粧水・ファンデーション・日焼け止めをどう分けて考えるか、そして治療が終わったらいつから戻せるかを整理します。
まず確かめたいのは「顔のどこに当たっているか」

顔全体が照射範囲とは限らない
放射線治療は、体の外から当てる場合でも、狙った場所に集中させる治療です。
顔や首の治療でも、顔全体に均等に当たっているわけではありません。
たとえば、片側の首のリンパ節が中心の治療もあれば、鼻やほおの一部が中心の治療もあります。
範囲は、治療前に撮る計画CTをもとに、あらかじめ決められています。
そして、放射線の影響は、原則として当たった範囲に出ます。
つまり、「顔に治療をしている」とひとくくりにせず、どこが範囲で、どこが範囲外かを知ることが出発点になります。
範囲は聞けば分かる
照射する範囲は、日によって変わるものではありません。
- 治療室で「顔のどこまで当たっていますか」と聞く
- 治療開始前に渡された説明書を見返す
- 放射線治療の診察のときに担当医に確認する
固定具(シェル)を使っている方は、そこに印が付いていることもあります。
顔や頭の固定具については、こちらの記事を参考にしてください。
ただし印の付け方は施設によって違うので、自己判断はせず、確認はスタッフにお願いしてください。
「メイクしていいですか」に聞くと、話が早く進みます。 生活の質問だから聞きにくい、ということはありません。
塗るものは確認が必要
照射された皮膚には、乾燥や赤み、かゆみ、ヒリヒリ感などが出ることがあります。
治療中は、こする・ひっかくなどの刺激を避けることが基本です。
国立がん研究センターは、がん治療中の基本的なスキンケアとして「清潔」「保湿」「保護」、そして皮膚の状態を「観察」することを挙げています。
この考え方は、放射線治療を受ける場合にも参考にできます。
同センター中央病院のスキンケアの案内では、放射線が当たっている部位について、次のように具体的に示されています。
- 石けんはよく泡立てて、皮膚にのせて洗い流す
- タオルは、こすらず押さえるように使う
- 手やタオルで直接こすったり、ひっかいたりしない
- 湿布や絆創膏は貼らない
- 男性のひげ剃りは、電気カミソリを使う
これらは、照射部位をこすったり、傷つけたりしないための注意です。
そして、照射部位に何を塗ってよいか、いつ塗るか(治療の前か後か)については、
施設ごとに指示が異なります。
ここは一般論では決められない部分なので、必ず通っている施設の指示に従ってください。
照射部位の洗い方や保湿、服装については、「放射線治療中の皮膚炎とスキンケア」で詳しく整理しています。
化粧水・ファンデーション・日焼け止めそれぞれ違う

「メイクはしていいですか」という質問には、実はいくつもの中身が混ざっています。
分けて考えると、判断しやすくなります。
化粧水・乳液など、保湿のためのもの
役割としては「保湿」にあたります。
ただし、照射範囲に何を使うかは、施設の指示が優先です。
処方された保湿剤があるなら、まずそれを使ってください。
範囲外の場所については、これまで使っていたもので問題ないか、あわせて確認しておくと安心です。
ファンデーション・パウダーなど、顔全体に広げるもの
照射範囲には、ファンデーションやパウダーを塗らないのが原則です。
範囲外にメイクする場合も、落とすときに照射部位までこすらないよう、
範囲の境目を確認しておきます。
落ちにくいメイクほど摩擦が増えやすいため、落としやすさも選ぶ基準になります。
ポイントメイク(眉・アイライン・口紅)
顔の一部だけに使うものなので、その場所が照射範囲かどうかで判断が分かれます。
範囲外であれば、これまでどおりで問題ないか確認しやすい部分です。
眉やまつげ、唇が範囲に入っているかは、人によって違うので確認が必要です。
日焼け止め
紫外線を避けること自体は、照射された皮膚を守るうえで大切です。
ただし、照射部位に日焼け止めを塗ってよいかは、施設の指示を確認してください。
塗らずに紫外線を避ける方法もあります。
- つばの広い帽子
- 日傘
- 日陰を歩く
- 日差しの強い時間帯を避ける
照射部位に日焼け止めを使えるか確認できるまでは、帽子や日傘など、皮膚に塗らずにできる方法で紫外線を避けます。
メイクを落とすときは、照射部位をこすらない
治療中のメイクで、いちばん皮膚に負担がかかるのは、落とす場面です。
- こすらない。指の腹でやさしくなじませる
- 熱いお湯で流さない。ぬるま湯で
- タオルは押さえて水分を取る
- 落ちにくい部分を、無理に落とそうとしない
落とすのに時間がかかるメイクは、それだけ皮膚をこすっているということです。
治療の期間だけ、メイクを軽くする。それも一つの方法です。
赤みやヒリヒリが出てきたら
治療が進むと、照射された場所に変化が出てくることがあります。
赤みが出てきた、ヒリヒリする、皮がむけてきた。
そのときは、その場所へのメイクをいったん休んでください。
そして、その変化を治療室で伝えてください。
放射線治療は平日は毎日通う治療なので、次の診察を待たずに、その日のうちに伝えられます。
かゆくても、かかない。湿布や絆創膏を貼らない。この2つは、症状が出てからは特に大切です。
首元は、服も影響する

首に照射している方には、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
国立がん研究センター中央病院は、次のように案内しています。
首の周囲に放射線を照射している人は、襟のある服はこすれやすいので避けたほうが無難。ワイシャツを着なければならないときは、できるだけネクタイを締めず、第1ボタンを開けて、首に襟が当たらないようにする。
首の皮膚の変化を隠したくて、タートルネックやスカーフを選びたくなることもあると思います。ただ、隠すための布が、いちばん擦れる場所に当たることになります。
皮膚の変化を隠したいときも、タートルネックやスカーフが照射部位に触れると、摩擦になることがあります。
首に触れにくい襟ぐりの服などを選べないか考えてみてください。
どうしても人前に出る必要があるときは、首に密着しない素材やゆるさを考えてみてください。
治療が終わったら、いつから戻していいか
ここも、よく聞かれるところです。
皮膚の反応は、治療が終わった瞬間に止まるわけではありません。
照射がすべて終了してから1〜2週間が最もひどくなりやすい時期であり、
治療後1か月くらいは、治療中と同じような服装、スキンケアを続けることが大切です。
ただし、この「1か月」は、そこを過ぎたら元どおりにしてよい、という期限ではありません。
いつものメイクに戻す時期は、皮膚の状態と、治療を受けた施設の指示を確認してください。
赤みやヒリヒリ、皮むけが残っている間は、刺激の少ない状態を続けたほうが、皮膚の負担は減ります。
迷ったら、こう聞いてみてください。
「いつものメイクに戻していい皮膚の状態ですか」
治療が終わったあとに相談するのを遠慮する必要はありません。
まとめ
- メイクの可否は「顔だから」ではなく、照射範囲と施設の指示で決まる
- 顔全体が照射範囲とは限らない。範囲は治療計画で決まっていて、聞けば分かる
- 化粧水・ファンデーション・ポイントメイク・日焼け止めは、分けて考える
- 照射部位に何をいつ塗るかは、施設の指示に従う。処方の保湿剤があればそれを優先
- 塗るときより、落とすときの摩擦のほうが皮膚に負担がかかる
- 日焼けは、塗る以外に帽子・日傘・日陰という方法がある
- 首への照射では、襟やネクタイも刺激になる
- 治療後1〜2週間が皮膚の反応のピーク。戻す時期は日数でなく皮膚の状態で決まる
顔は、いちばん人に見られる場所です。
照射範囲への化粧品は避け、範囲外のメイクや処方された保湿剤の使い方を確認する。
そうすれば、顔全体のメイクを一律に諦めず、自分にできる方法を選べます。
治療室では、
「顔のどこまでが照射範囲ですか。範囲外なら、どこまでメイクできますか」
と聞いてみてください。
※この記事は放射線治療の一般的な情報をまとめたものです。照射範囲や皮膚の状態、施設の方針は一人ひとり異なります。ご自身の治療については、必ず治療を受けている医療機関にご確認ください。
参考情報
- 国立がん研究センター中央病院「放射線治療中のスキンケア」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「皮膚のトラブル」
- 日本放射線腫瘍学会「放射線治療Q&A」

