手術のあと、傷のあたりがつっぱる。
腕を上げようとすると、途中で止まる。
上がるけれど、痛い。
そんな状態のときに、放射線治療の説明を受ける。
「治療のときは、両腕を上げた姿勢になります」
そこで、不安になります。
「この腕で、大丈夫だろうか」
「無理してでも、上げないといけないのかな」
「上がらなかったら、治療できないと言われる?」
診察では「はい」と答えたものの、家に帰ってから、
「本当にこの姿勢を保てるだろうか」
と気になることがあります。
元がん放射線療法看護認定看護師として、乳房への放射線治療を受ける方に関わってきた立場から、
この疑問を整理します。
先にお伝えします。
腕が十分に上がらなくても、それだけで放射線治療ができないと決まるわけではありません。
両腕を上げることが難しい場合に、片腕を上げる体位などを検討できることがあります。
ただし、可能な体位は、照射範囲、治療方法、装置や施設によって異なります。
腕が上がりにくい、上げると痛い、上げたまま保てない場合は、
できれば放射線治療科の初診時に、遅くとも計画CTの体位を決める前までに伝えてください。
なぜ、腕を上げるのか
乳房や胸壁への放射線治療では、多くの場合、あお向けになり、両腕を頭のほうへ上げます。
乳房や胸壁のまわりに照射するための空間を確保し、毎回同じ姿勢を再現しやすくするためです。
両腕を上げる姿勢が一般的ですが、両腕が難しい場合には、
片腕を上げる体位を検討できることもあります。
どの姿勢を選べるかは、照射する範囲や治療方法、装置によって異なります。
左側の乳房では、心臓を放射線から遠ざけるために息を止める方法をとることがあります。
詳しくはこちらの記事にまとめています。
「上がらない」にも、いろいろある

ここで大事なのは、「上がる・上がらない」は0か100かではない、ということです。
- 上がるけれど、痛い
- ある高さまでは上がるが、そこから先が動かない
- 上げていられるのは数秒だけ
- 上げるとつっぱるが、支えがあれば保てる
- 日によって違う
どれも「上がらない」と表現されますが、中身はまったく違います。
そして、どの状態なのかによって、対応が変わります。
治療では、位置合わせから照射が終わるまで、同じ姿勢を保つ必要があります。
必要な時間は、治療方法やその日の確認内容によって異なります。
「少し上がるから問題ない」「痛いから治療できない」と、自分だけで結論を出す必要はありません。
必要な腕の角度と、その姿勢を保てるかをスタッフが確認し、治療体位を検討します。
伝えるのは、計画CTの前
放射線治療は、いきなり始まるわけではありません。
まず、治療計画のためのCTを撮ります。
このとき、実際に治療を受けるときと同じ姿勢をとります。
腕の位置、枕の高さ、体の角度。
このときの姿勢が記録され、以後の治療は、毎回その姿勢を再現する形で行われます。
つまり、計画CTで決めた姿勢が、その後の照射で繰り返し再現する基準になります。
ここが大事なところです。
計画CTのときに無理をして、痛みをこらえて腕を上げてしまうと、
計画CTで強い痛みをこらえて姿勢を作ると、その体位をもとに治療計画が作られます。
あとから大きく姿勢を変える場合は、体位や治療計画の再確認が必要になることがあります。
計画CTのあとに痛みが強くなった場合や、以前より腕が上がりにくくなった場合は
その都度、治療室スタッフに伝えてください。
何と言えばいいか

難しい説明はいりません。事実をそのまま伝えれば十分です。
- 「手術した側の腕が、まだ上がりにくいです」
- 「このあたりまでは上がりますが、そこから先が痛みます」
- 「上げていると、だんだんつらくなってきます」
- 「腕を上げたまま、どのくらいじっとしている必要がありますか」
どこまで動かせるかは、スタッフが痛みを確認しながら、実際の動きを見て判断します。
強い痛みをこらえて、限界まで上げてみせる必要はありません。
腕を支える台や枕の高さを調整することもあります。
気になるときは、「この高さだとつらいです」と、その場で言ってかまいません。
診察後に気づいた場合は、計画CTを担当する診療放射線技師や看護師にも伝えてください。
必要に応じて放射線腫瘍医と共有し、体位を検討します。
伝えたいことを忘れてしまいそうなときは、診察前にメモしておく方法もあります。
痛みをこらえたまま体位を決めないために
計画CTで決めた姿勢は、その後の照射で繰り返し再現します。
計画CTのときには保てても、同じ姿勢をとるうちにつらさが増すことがあります。
また、痛みが強いと、同じ姿勢を保つことが難しくなる場合があります。
放射線治療では毎回の体位をできるだけ再現することが大切なので、
痛みやつっぱりも、体位を決めるための情報です。
計画CTのあとや治療の途中でも、痛みや腕の動きが変わったら、その時点で伝えてください。
治療途中の皮膚のケアについては、こちらの記事にまとめています。
リハビリとの関係

手術のあと、腕や肩を動かすリハビリを指導されている方も多いと思います。
国立がん研究センターの情報では、術後早期から1週間くらいの時期に、
手術をした側の手や腕、肩関節が動く範囲や、傷のひきつれ感・痛みを確認しながら、
状態に合わせた運動を始めるのがよいとされています。
ここで、ひとつ気をつけていただきたいことがあります。
「放射線治療に間に合わせるために」と、自己流で無理に動かさないでください。
リハビリは、痛みをこらえて限界まで動かすものではありません。
ただし、運動を始める時期や方法は、手術の内容や傷の状態によって異なります。
病院から教わった運動は、指示された方法と範囲で行います。
放射線治療に間に合わせようとして、強い痛みを我慢しながら、
動かす範囲や回数を自己判断で増やすのは避けてください。
腕が上がりにくい状態が続く場合は、手術を受けた診療科やリハビリの担当者に、
放射線治療の予定も伝えて相談します。
どのくらい動かしていいのかは、手術の内容や傷の状態によって変わります。
主治医やリハビリの担当者に確認してください。
治療開始の時期について
日本乳癌学会は、術後化学療法を行わない場合、手術創が治り次第なるべく早期に、
特に術後20週以内に放射線治療を始めることを勧めています。
一方、術後化学療法を行う場合は、化学療法が終わってから放射線治療を始めるのが一般的です。
したがって、すべての方に同じ開始日が当てはまるわけではありません。
腕の状態だけで開始時期が決まるわけでもありません。
傷の状態、薬物療法の予定、必要な治療体位などを確認して、医師が判断します。
腕の状態によっては、体位の工夫やリハビリの相談が必要になるため、
早めに共有することが治療の準備につながります。
まとめ
- 腕が十分に上がらなくても、それだけで放射線治療ができないと決まるわけではない
- 両腕が難しい場合に、片腕を上げる体位などを検討できることがある
- 計画CTで決めた姿勢は、その後の照射で繰り返し再現する基準になる
- どこまで上がるかだけでなく、痛みや、その姿勢を保てるかも伝える
- 計画CTのあとや治療途中に状態が変わった場合も、その時点で伝える
計画CTで必要なのは、限界まで腕を上げることではなく、
その後の照射でも再現できる姿勢を決めることです。
どこまで上がるか、どこから痛むか、どのくらい保てるかを、
計画CTの体位を決める前に伝えてください。
治療が始まってからの症状や困りごとを記録して、診察で伝えるための記録帳も作っています。
※この記事は、公的機関および学会の情報をもとに作成した一般的な情報です。
診断や治療方針を示すものではありません。治療の姿勢や開始時期、リハビリの進め方は、手術の内容や体の状態、施設によって異なります。ご自身の治療については、必ず通っている病院の医師や医療スタッフにご確認ください。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
- 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版』Q38
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療の実際」

